- ナノ -

再会。

※SSL
新入生名簿を捲る手が止まった左之に首を傾げて見せる。俺はと言えば新学期に向けての資料を作成中。そんな俺に左之は妙に緩みきった顔で名簿を投げて寄越すものだから危うく机の上のコーヒーが零れるところだった。

「っぶね……ったく、なんだよ」

俺の呟きにも答えるつもりが無いようで。左之は俺に寄越した名簿はそのままに自販に行ってくる、なんて軽やかに笑って職員室を出て行った、俺の肩を一つ叩いて。
何が何だか意味が分からずとりあえずと机に投げて寄越された名簿に目を向ける。ご丁寧に右上へと折り目まで折られたその生徒の写真を見た瞬間に今までの左之の行動が理解出来た。

「見付けた、」

真新しい制服に身を包んだ新入生が続々と正門を潜り抜けてくる中、俺の目は見間違えることも無くある一人の生徒へと向けられた。隣でくつくつ喉を鳴らす左之を横目に職員室のドアを勢いよく開けて外へと駆け出した。ちなみに職員室からは土方さんの怒鳴り声が追いかけてきたけども。


何かを発することもせず、ただ淡々と校舎脇の桜を見詰める姿はいつだかと全く変わることが無かった。勿論、髪だとか服装だとかはあの頃とは全然違うものだけれど。それでもその立ち振舞いだとか凛とした空気だとか、そう言ったものは変わることも無くあの頃のままだった。当時も俺の隣でただじっと桜へと目を向けるその横顔をちらちらと盗み見していたことがついこの間の様に感じるものだから知らずと一人、笑いが漏れた。

「……何か用、だろうか」

俺が教師だとは気付かないのか。声を掛けるタイミングを見計らっていれば眼前の相手は俺の漏らした声に訝しんだ様に振り向いた。その瞳は俺の姿を認識した瞬間に見開かれたものだから、ああ記憶はあるんだな、なんてこの状況にはあまり適切で無い考えが頭を過った。

「……っ、」

息を飲んだのが分かった、でもそれは俺の腕の中でのこと。自分でもこんなに耐え性の無い人間だったとは思いたくは無いが、それ以上にたった今腕の中に収めた相手が俺に与えた影響は大きいのだからこれも仕方が無いとも思える。

「は、じめ」

ぎゅう、と腕に力を込めてその背を掻き抱いた俺に一は最初のうちは仕切りに瞬きを繰り返していたが暫くすると漸く状況が理解出来たのか緩く笑みを浮かべてくれた。

「あんたは、此処に居たんだな」

俺の胸に顔を擦り寄せて呟く一の言葉に小さく頷きを返せば何故か一はおろおろと慌てて俺の顔を凝視してきた。

「……四季、何故あんたは泣く」

問われた言葉の意味を理解する前に頬へハンカチが宛がわれる。それによってああ、俺は今泣いているのかと、妙に冷静な頭がそう理解した。

「そんなの、お前に漸く会えたからに決まってんだろ」

掠れた声で言えば。

「……そうか、ならば俺も泣くべきなのだろうな」

そう言って言葉とは裏腹に綺麗に笑って見せた一を俺は再度強く抱き締めた。


再会。


(お前にまた出会えた、)
(奇跡)
‐End‐
20110403.