- ナノ -

お返し

※SSL
今現在俺の前に居る人物について俺はもう何度自問自答を繰り返しただろうか。だって考えてもみろ。先月貰った分のお返しを配り終えてさあ帰るかって下駄箱に向かえば自販機横で壁に寄りかかる龍之介が居た訳だ。まあここまでは良い、龍之介だって何かしらの用事があってこんな時間まで学校に残っていたんだろうと考えられる。が、問題はその先。
一言声でもかけるかと思い近付けば俺の姿を視界に入れた途端に何故か頬を赤くさせる始末。え、いやいやいや何その表情。お前そんなキャラじゃなくね、え、ちょ、本当なんか色々やばいだろ。内心でごった煮となった俺の気持ちも露知らず、きょろきょろと辺りに視線を泳がした龍之介は一つ小さく頷くと自ら俺の元へとやって来た。

「い、今帰りか?」

妙に早口で問われたその言葉に頷きを返せば再度辺りを見渡す龍之介。いよいよその行動の意味が分からなくなってきた為に自分よりも下の位置にある顔を覗き込む。視線が絡んだ瞬間にかあ、と赤くなる龍之介に首を傾げつつ熱でもあるのかと額へと手を伸ばせば。

「……っ、」

小さく息を呑んで俺の手をはたく龍之介。いまいち状況が理解出来ずに瞬きを数度。そんな俺の様子に龍之介は気まずげに視線を泳がせた後に意を決した様に一度目を閉じた。

「手、出せ」

数秒の間の後に口に出された要求に大人しく従って右手を差し出せば。

「先月の、礼だ」

小さく呟かれると同時に俺の右手には数個のチロルチョコ。たった今貰ったばかりのそれと龍之介の顔とを交互に見るようにして状況理解を試みる。その結果得られた答えに顔が綻びるのを抑えつつ、踵を返して帰ろうとする龍之介を抱え込むまであと、――秒。



お返し


(なあ、言葉で聞きてえんだけど)
(囁いたそれに小さく肩を振るわせて耳元を赤く染めた龍之介を俺は抱き締めずには居られなかった)
‐End‐
こんな時だからこそ、少しでも笑顔になれればと考えこの度の更新とさせて頂きます。
20110314.