- ナノ -

挑発

※SSL
「歳、早く口開けろっての」
「いい加減にしやがれ、てめえのお遊びに付き合ってる暇は無えんだよ」
「だから早くっつってんだろ、歳が大人しく口開けりゃあ済む話だろうが」
「うるせえ、さっきから何馬鹿な事言ってやがる」

廊下に居た歳を手近の空き教室に連れ込んで十数分。互いに一歩も譲ることのない押し問答に俺も歳も引けなくなってきた頃、俺の願いも虚しく予鈴が鳴り響いた。残念だったな、だなんて鼻で笑う歳にふて腐れる俺。端から見ればお前ら餓鬼かってくらいのやり取りに思わず溜め息が漏れた。
そもそも、歳が早く素直になれば俺がこんなにも不完全燃焼な気持ちになる事も無く、歳を昼休みいっぱい拘束する事にもならなかった筈だ。ツンデレも大概にしなきゃ嫌われるぜ、と小さく呟けば返事の変わりに拳骨が落とされたモンだから余計に虚しい。

「だってよ、雪村と南雲がそりゃあ仲良く互いに雛あられを食べさせてたモンだからよ……歳にも、ってな」
「うるせえ。いい年こいた大人が、んな餓鬼くせえ真似出来るか」

十数分前の俺の説明も報われずそう突っぱねられた後は互いににらみ合い。俺は歳を壁に押し付けて雛あられを口元へ。歳は歳で決して口を開けず殺気宜しく俺を睨むばかり。気付けば予鈴が鳴っていて見事に俺の完敗と言う訳で。

「歳の馬鹿やろー」

いじけつつも授業に遅れる訳にもいかず、歳から身体を離せば。不意に指先が温かくなるのを感じると歳が俺の持つ雛あられを口に含んだところだった。あーん、だなんてそんな言葉も無くあっさりと俺の手を離れていった雛あられは歳がゆっくりと咀嚼していった。あまりに急な展開にぼんやりとその様子を見詰めていれば指先には湿った感触。慌てて意識を戻すと俺の指先に付いた砂糖を舐め取り、それは妖艶に笑う歳が居た。



挑発


(な、ちょ……歳っ)
(は、情けねえ面だな四季)
(……っ、反則だろそれ)
‐End‐
20110303.