- ナノ -

あと2日、

※SSL
休日の真っ昼間から俺は何してんだか、小さく吐き出した吐息と共に音になった言葉は後部座席ではしゃぐ平助と千鶴ちゃんの声に上書きされていった。そもそも運転手が必要なら今現在俺の隣で知らぬ顔して窓の外を眺める左之助に頼めば良いだろうに。そんな意味も込めてジト目で睨んでやれば俺の視線に気付いたのか何故かは知らねえが持ち前の美貌を活かしてそれは綺麗に笑ってみせるもんだから文句を言う気も消え失せた。

「仕方ねえだろ、今車検に出しちまってんだからよ」

台詞とは裏腹でちっとも詫びを入れる気の無いくせに良く言うもんだ。生憎ながらこっちは気持ち良く惰眠を貪っていたところを平助の奴に叩き起こされたもんだから苛立つのも仕方ない事だと思いたい。そんな俺の心の葛藤も露知らず左之助と言えば宥める様に俺の髪を撫でるもんだから始末におけねえ。

「つか、幼なじみ同士でチョコの交換ってのもまた」

俺の髪を撫でる手をそのままに視線は前方、隣の左之助に言えば。

「まあ、ガキなんだろ平助も千鶴も」

くつくつと喉で笑いながら返された言葉に本日何度目かの溜め息を吐いて駐車する為に助手席へと左腕を掛けた。

「なんなら俺も、四季にチョコやろうか?」

互いの顔が僅かに寄った瞬間、吐息混じりに囁かれた言葉に瞬きを一つ、ちなみに車は無事に駐車済み。嬉々として後部座席から降りる平助と千鶴ちゃんを横目に左之助の真意を探ろうとその横顔をじっと見詰めれば。途端にそれは綺麗に口元をつり上げて笑うもんだから何だかどうにでもなれといった調子でそれまでの苛々が消えてくのを感じた。

「そんじゃあまあ、楽しみにしてるわ」

未だ渡されてもいないチョコの礼に軽いリップ音をたてて唇の脇にキスを落とせば、今度は左之助が先程の俺同様に瞬きをして見せるもんだから二人してくすくすと笑った。


あと2日、


(チョコに加えて左之助も食いたい)
(そう耳元に囁けば挑発的な笑みと共に妙に嬉しそうに弾んだ返事を寄越された)
‐End‐
20110212.