- ナノ -

やくそく

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コンビニで20%OFFになった恵方巻きを片手に玄関のドアを開ける。玄関先の照明を着けて室内へと上がれば、慣れた手付きで鍵を閉め、ローファーを揃えた一が俺の後に続いた。

「さて、と……確か今年は南南東だったか」

俺の呟きに浅く頷きを返す一。それを横目で見やって携帯に備え付けられている簡易磁石で方角を調べる。今年は丁度ベランダに向かう形で恵方巻きを食べるようで。夕飯にしちゃあ僅かに早い午後六時、ソファーに一と共に腰を下ろしつい先程買ったばかりのコンビニのビニール袋を広げた。

「……あんたはこんな物まで買ったのか?」

苦笑混じりに問われた言葉に意識を持っていく。見れば一の手にあるのは俺がカゴに入れた鬼の面と福豆で。いややっぱり節分と言えば豆撒かねえと、そんな意味も込めて福豆へと伸ばした手は緩く払われる。代わりにと差し出された恵方巻きを口に入れつつ一を見れば一切俺の方には目を向けずに黙々と恵方巻きを咀嚼していくのが見て分かった。
恵方巻きを食べる際は一切喋ってはならない、確か今朝のニュースでそんな事を言ってたっけかとぼんやり考えながら最後の一口を胃へと流し込む。見れば一も食い終わったようでテーブルにある茶へと手を伸ばしていた。

「なあ一、来年はさ。お前の手作りの恵方巻きが食いたいんだけど、なんて」

ちらりと一を伺いつつ口に出せば。一つ二つ、瞬きをしたかと思いきや何故だか分からないが頬に赤を差して俯く一が居て。

「一、顔赤いけど」
「……問題無い」

俺の言葉に緩く首を振って否定を示す一は顔を上げるとじっと視線を合わせてきた。

「それは、来年もこうしてあんたと共に居られると意味で捉えても良いのか」

小さな声で呟かれたそれに今度は俺が瞬きをする番で。数分の沈黙の後、漸くその言葉の意味を脳が理解した時には俺の頬は先程の一のように赤を差していた。


やくそく


(……当たり前だっつの)
(……そうか)
(つか離すつもり無えしな、一の事)
(……四季、俺もあんたを離したくない)
‐End‐
20110203.