- ナノ -

酒盛り

普段の自分達からは今このような状況に置かれるだなんて想像も出来なければしたくもなかった。そもそも今自分の肩に寄りかかっている沖田は一体何をどう考えてこの行動に至ったのか。そんな考えても分かるはずのない問いをまるで現実から目を背けるかのように浮かべては消し、浮かべては消しの繰り返しをしている。

「……勘弁してくれよ」

口に出した言葉は誰に聞かれることもなく消えていった。

新選組監察方総長を務める四季と同じく新選組の一番組組長である沖田は端から見ても分かるほどに馬が合わなかった。四季は沖田の常に飄々とした態度が気に食わなかったし、沖田の方も何が気に入らないのか四季に対しての言動が他のそれとは違っていた。元より年齢も近く互いに何かしらの影響を与えていたのだろう。朝稽古に共に居合わせれば問答無用とばかりに打ち合い、廊下ですれ違うものならば互いに互いをきつく睨み、そしてどちらかともなく舌打ちをした。それ程までに二人の仲は悪かったのだ。
では何。自分達は酒を飲み交わし、そして沖田は自分の肩を枕代わりにし安らかな寝息を立てているのか。事の起こりは亥の刻を少し回ったところだった。


「一緒にどう?」

不意に自室の襖越しに聞こえた声に四季はあからさまに顔をしかめた。監察方と言えど総長という立場を任されている四季は自室を与えられていることもあり今夜は土方に提出するための報告書に筆を走らせていたのだ。順調に書き上げ、推敲を残したところで一息着けば自室の外に人の気配を感じ意識をそちらへと移した。

「……あんたが俺を酒に誘うだなんて一体どんな心境の変化だか」

皮肉な言葉を漏らしつつも自室へと招き入れ互いに腰を下ろす。

「……別に、たまには良いじゃない」

僅かに頬が赤らんでいるのはきっと此処へと来る前に何酌か煽ってきていたのだろう。そう結論付け差し出された盃へと口を付けた。


「……ん、」

沖田が寝に入ったのはそれから少し経ったところで。さてどうしたものかと思案し、とりあえずこのままではまずいだろうという結論に居たり既に敷いてあった布団へとその身体を横たえる。僅かに身をよじり安定出来る姿勢を見付けたのか、横を向き布団へと顔を埋める沖田に四季は今夜何度目になったのか分からない溜息を吐いた。

「……っ、」

不意に腕の引っ張られる感触がし瞳を見開けば。ぎゅう、と着流しの袖口を握り変わらず寝息を立てる沖田の姿があった。

「あんたも、そうしてりゃあ中々可愛いのにな」

小さく喉を鳴らし満足気にそう呟けば。盃に残った酒を煽り、風邪を引かないようにと掛け布団を直してやったのだった。


酒盛り


(……たまには、か)
(確かに悪くはねえかも、な)
‐End‐
20101008.