- ナノ -

先輩と後輩

※SSL
「だーかーら、俺が良いって言ってんだから烝君は大人しく着いてくれば良いんだって」
「……っ、ですが俺は」

帰ろうかなって教室を出た直後に響く誰かの声。視線を向ければそこには四季君と山崎君が遠目から見ても分かるくらいに激しく何かを取り合ってた。よく見ればそれは多分山崎君の鞄で、何故だかは分からないけれど四季君が山崎君の鞄を引っ張ってどこかへと連れていくつもりの様な、そんな光景だった。

「四季君、嫌がる相手に無理強いだなんて誘拐犯みたいだよ」

後から教室を出て来た一君と一緒に二人の元へと向かう。僕の言葉に四季君は慌てて山崎君の鞄から手を離して肩を下げてうなだれた。

「何故あのような事をしていた」

そんな四季君に一君がそう聞けば。ぽつりぽつりと訳を話し始めた四季君。


「つまり勉強を教えてくれたお礼に四季君は山崎君にお昼ご飯を奢りたいって事?」

視線で聞けば四季君は大きく頷いて見せる。

「なのに烝君が大人しく奢られてくれねえんだよ」
「……そもそも四季君ってば自分より後輩に勉強を教えてもらうってどうなの?」

ふと疑問に思った事を聞けば四季君いわく出来る人間から教えを得る事の何が悪いのか、だって。確かに四季君の言う事にも一理有るなあなんて考えていればそれまで黙りきりだった一君が口を開いた。

「四季の言うことは正しい、と俺は思うが」
「そうそう、山崎君もさあ四季君が良いって言うんだから素直にご馳走になれば良いじゃない」
「ですが、俺はそんなつもりで四季さんに勉強を教えたわけではありません。第一、先輩に食事をご馳走になるなど」

そう言ったきり黙り込む山崎君。ちなみに四季君は僕らに任せたといった様子で傍観を決め込んでる。あれそういえば何で僕らもいつの間にか巻き込まれてるんだろ。

「ねえ山崎君、そんなに拒むのってもしかしてこれから用事があるから、とか。ほら、彼女とクリスマスデートの予定……とか」

僕の言葉を遮って四季君は大きく声を上げてその場にしゃがみ込んだ。頭を抱えてあからさまにしょげた姿の四季君に溜息を一つ。隣に居る一君は目を僅かに見開いてその様子に驚いていた。

「うう、そうだよなクリスマスだもんな。そりゃあ烝君の事だし彼女の一人や二人くらい」
「だから、どうしてそういった方向に話が進むんですか」

眉を下げて僕の言葉を否定する山崎君に四季君は瞬きを一つ。漸く頭が理解したのかぱっと表情を明るくさせて良かった、と肩を下ろして見せた。

「だったらさあ四季君、僕らが山崎君の代わりにご馳走になろうかな」

いい加減この状況に飽きてきたからそう呟けば。僕の言葉に山崎君は肩を跳ねさせて自分が行きます、ってまるで何かの任務にでも就くかのような口調で言った。始めから頷いていればこんな面倒な事にならないのに、本当あまのじゃくだよね山崎君って。そういった意味も込めて山崎君の横顔を凝視してれば#名前2#君はひらめいたかの様に声を弾ませて僕らに言った。

「……っし、烝君もその気になってくれたみてえだし。総司に一、お前らにも奢ってやっから勿論付き合うだろ?」

へらりと笑った四季君に僕と一君は互いに顔を見合わせて、そして二人揃って頷いた。


先輩と後輩


(そんじゃ行くか)
(……っ、四季さん)
(あれえ山崎君、どうしたの顔が真っ赤だけど)
(へへ、烝君の右手もーらいっ)
(……)
(ひょっとして四季君に手を繋がれて照れちゃった、とか)
(総司、あまりからかってくれるな)
‐End‐
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20101223.