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おとなとこども

※SSL
いつもの定位置に乗り込んでシートベルトを締める。右隣りの運転席では歳さんが慣れた手つきでキーを差し込んでエンジンをかけていた。左右を確認して助手席の背もたれに左腕をかけながらハンドルを切って駐車場から車を出す歳さんと、それをぼんやりと眺める俺。出来る大人っつう感じで格好良いよなちくしょうだとか考えていれば不意にこっちを向いた歳さんと目が合った。

「何にやけてんだ」
「んー、歳さんの横顔に見惚れてただけ」

へらりと笑って歳さんからの追求を逃れれば。そんな俺の態度にも慣れた様子で息を吐いた後に車を発進させた。

「……こんな時期に遊びほうけるなんざ受験生が聞いて呆れるな」

視線は前方、問い掛けられた言葉は俺宛て。確かに俺は高三の受験生、だけどせっかくのクリスマスに大事な人と過ごさないなんて選択肢は俺の中には一切存在しねえ訳で。

「大丈夫だって、勉強はちゃんとしてるし。つかこんな大事な日に歳さんと会えないなんて俺死んじゃうから」
「ったく、毎度の事ながら調子の良い奴だなお前は」
「そもそも歳さんが先生で俺が生徒ってのがおかしいんだって。ちくしょう、左之や新八だって先生だってのに何故か俺だけこっちでは生徒とかさあ」

溜息混じりで愚痴を零せば頭を軽く撫でられる。ちなみに信号は赤。今日は何か機嫌良いよなあだとか考えてればふと、思い付いた事があった。

「考えてみれば俺と歳さんって端から見りゃあ犯罪じゃね、先生と生徒がって点で」
「阿呆、んなもん気にしねえで事を進めたのはてめえだろうが」

悪戯げに呟いた言葉は歳さんによって一刀両断されて。つまんねえなあ、少しはきょどるくらいしても可愛いのによ。わざとらしく頬を膨らませてそう言えば左手で頭を小突かれた。

「うー、だってさあ。やっぱ近くに居ないと心配なんだって、歳さんって女連中からすげえ人気だし」
「は、それを言うならてめえもだろ四季。しょっちゅう聞くぜ、お前の噂」

ぽつりと零したそれは同じ様に歳さんからも返されて。そういう事を気にするような人じゃねえと思ってたから思考が停止すること数秒間。

「……で、でも俺は今日だって大事な人と過ごすからってダチの誘い断ったし」
「は、それは偶然だな。俺も、てめえと同じ言い訳して飲み会を断ったんだからな」

そう言って緩く笑った歳さんに俺は当然ながら見惚れてて。やべえこれデレたよデレた。綺麗な顔して笑うよなあ本当に、頬に上る熱が悔しくてそう呟けば歳さんは阿呆って言って俺の髪をぐしゃりと掻き交ぜた。


おとなとこども


(なんか歳さんばっか余裕でむかつく)
(ふ、伊達に年くってねえからな)
(うー、ちくしょう覚えてろ。歳さん家に着いたら俺がたっぷり可愛がってやるから)
(出来るもんなら、な)
(歳さん今日いじわるー)
(うるせえよ、ばーか)
‐End‐
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20101222.