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年上のあの人

※SSL
「あれ、千鶴どうしたこんなところで」

声のした方を振り向けば背の高い、多分俺達よりも少し年上の男が千鶴に向かって手を振ってた。それを見た千鶴は何だかよく分からねえけどびっくりした後にぱたぱたと男の方へと駈け寄って行っちまった。残された俺と龍之介が互いに顔を見合わせて千鶴の後を追えばその男は俺達に気付いた様でにっこりと笑顔を浮かべて見せた。

「四季兄さん、どうしてこちらへ」
「いやあ、少し野暮用でな。家にも寄ったんだがまだ学校だって言われたからさ。それより千鶴、お前も悪い女だなあ。クリスマスに両手に男二人、で、どっちが本命なんだ」

へらへらと笑いながら千鶴の頭を撫でるその人は不意に俺らの方へと向き直って笑った。つか俺、千鶴に兄貴が居たなんて知らなかったっての、千鶴も千鶴ですげえ嬉しそうだし。

「そんな、今日はこれから平助君達とケーキを食べに行く予定だったんです。けど、」
「けど?」
「皆さん用事が出来てしまったようで人数が集まらなくて」
「だから後日にするかって話してたとこだ……です」

千鶴の言葉を引き取ってそう繋げた龍之介に兄さんと呼ばれたこの人は一つ二つの瞬きをした後に少し考えるような素振りで首を傾げて見せた。

「なるほどな。と、そういや君が井吹君でそっちの彼が藤堂君で合ってるか?」

急に呼ばれた名前に肩が跳ねる。それを見られたのか悪戯げに笑われたのが何だか気恥ずかしくて視線をさ迷わせた。龍之介も龍之介で何が何だか分からねえって面で千鶴に視線を向けていた。

「あ、紹介するね。宮路四季さん、従兄弟のお兄さんなんだよ」

その紹介を聞いて漸く頭の中が整理される。千鶴も早く言ってくれりゃあ混乱せずに済んだのになあとか思う俺は多分間違ってない。でも言われて見れば顔付きとかは少し似てるような気がするし、雰囲気とかも同じ気がしてくるもんだから親族ってのはすげえなあと思う訳で。

「何であんたは俺らの名前を知ってたんだ?」

隣でそう聞く龍之介に宮路さんは口に綺麗な孤を描いて笑った。その表情の意味が分からなくてまた首を傾げた俺達に説明するかのように宮路さんは口を開いた。

「歳……じゃあねえや、土方先生にお前らの事を聞いてたからな。あ、ちなみに敬語はいらねえからもっと肩の力抜いてくれよ」

ぐしゃりと撫でられた頭。年上なのに敬語がいらねえだとか、土方さんと知り合いみたいだとかよく分からねえ事ばっかだったのにその言葉は不思議と納得出来て頷けば褒めるように頭を数回叩かれた。

「……餓鬼慣れしてんだな、あんた。俺らと大して歳も変わらなそうなのに」
「そりゃあ伊達に教師っつう職に就いてねえよ。あ、ちなみに俺、歳と同期だからな」

くすくすと笑いながら楽しそうに笑う宮路さん。返された言葉に何て返せば良いのか龍之介はしきりに俺の方を見てくる。確かに龍之介の言う通りだと思う、俺達みたいな餓鬼と話す時もしっかりと視線を合わせて会話する姿とか特に。


「……と、本当はもっと話してたいんだが生憎これから用があってな。ほら千鶴、これでケーキでも買って皆で食えよ」

それから暫くして宮路さんは時計を見た後申し訳なさそうにそう言って財布から五千円札を取り出して千鶴に手渡した。千鶴はわたわたしながら返そうとしてたけど宮路さんに促されてそれを財布へとしまった。

「な、悪いだろ。そんな初対面の相手に」

龍之介の言葉に同意して頷けば。餓鬼は餓鬼らしくしてろ、そう言われてぐしゃぐしゃに頭を撫でられた。

「俺はお前らを気に入ったんだよ、まあクリスマスプレゼントだと思えば良いんじゃね。また会おうな、井吹君に藤堂君。それじゃあ千鶴、またな」

へらりと笑って後ろ手に手を振る宮路さんを見送る俺達三人。廊下から見える窓の外ではぱらぱらと雪が降り始めていたそんな12月24日。


年上のあの人


(なんか、名字で呼ばれんのってむず痒くねえか)
(……まあ)
(なあ千鶴、俺達もあの人を名前で呼べば良いのか?)
(うーん、そうかもしれない)
(そっか、んじゃ次会った時は四季さんって呼んでやろ、な、龍之介)
(……へいへい)
‐End‐
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20101221.