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むかしといま

※SSL
ねえ、四季さん。そう言って悪戯げに微笑む総司と溜息を吐く俺。ちなみに総司が握るシャーペンはもう15分近く動いていないかの様に思える。

「さん、じゃなくて先生を付けろ先生を。つか総司、さっきから一向に進んでる気がしねえんだが」
「やだなあ四季さんってば。今は僕しか居ないんだし良いでしょ。それに少しは進んでるしね」

そう言った途端にペン回しを始めるこいつに一体どの口が言ってやがるんだと一発小突いてやりたくなるのも仕方ねえんだと思いたい。そもそも何が嬉しくてクリスマスの教室に二人、反省文と向き合う生徒を監視しなきゃいけねえのか。確かに俺は担任の勤めからも仕事はしなきゃならねえ。が、総司も総司でさっきから無駄口ばかりを叩いて終わらせる気配がまるで無いことが頭を抱える原因でも有るのだから溜息くらいは許して欲しいと思う訳で。
今思えばあの頃もこいつはいつもこんな調子だったのだと。気付けば部屋から居なくなって近所の餓鬼共と遊んでいる。それを俺が連れ戻して隊務に着かせる。まさかこっちでもそれが続くなんざ思わねえだろ、こいつと再会した時にまたあの日常が戻ってきたのかと鼻の奥がツンとしたのは一生の不覚だったと思う。でも確かにこいつとこうして過ごすのは嫌いじゃあねえし、過去と立場が変わった現代でもそれは同じだった。我ながらこいつには甘いとは思うが、だけどやっぱりこいつのこんな面も気に入ってるのもまた確か。

「懐かしいな、前もこうやって四季さんは僕の側に居たじゃない」

声のする方へ意識を戻せば総司が緩く笑みを浮かべていて。自分達は同じ事を考えていたのかと思えば気恥ずかしさと嬉しさとがごちゃ混ぜになるのを感じた。

「分かってるなら少しは成長しろ、俺はいつまでもお前の伍長じゃねえんだからな」
「でも、今もこうして僕の隣に居てくれるでしょ。四季さん、僕がこの位置を気に入ってるんだって分かってる?」

わざとらしく首を傾げて問われた言葉に瞬きを一つ。こんな場面でもまた自分達は同じ事を考えていたのかと、じんわりと頭に上る熱を振り払うかの様に総司の頭へと手を伸ばす。

「……んなの昔から知ってっから。ほら、お前は早くそれ書いちまえ」
「じゃあさ、このあとの事も四季さんなら分かってるよね」
「ああ、頑張ったご褒美に茶と菓子だろ。お前、なんだかんだ俺の事好きだもんな」

ふは、と笑いを零して総司の髪を掻き交ぜる。当の本人は昔と変わらずに俺の言葉でやる気を出して、そして仕事を終わらせる。出来るならさっさとやれよと言いたくもなるがこれが総司なのだと、そう納得したのがつい最近の事に思える。

「うん、僕はきっとこうして構ってくれる四季さんが好きなんだと思うよ」

その後、無事に反省文を書き終えた総司からの告白は地面へと降り落ちる雪の中、吐き出される白い息と共に冬の夜空へと消えていった。


むかしといま


(総司のせいで俺のクリスマスが無くなっちまっただろうが)
(でもほら、僕と過ごせたんだしなんだかんだ嬉しいでしょ)
(ふ、お前も言うようになったな)
(僕は四季さんと過ごせて嬉しかったんだけど)
(……お前なあ、それ反則)
‐End‐
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20101220.