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変化

※SSL
「歳っ、セクハラしに来たぜー」

職員室の扉を勢いよく開け、目についた姿に背中越しから腕を回す。四季の行動は常の事なので今更誰かが何かを言う等といった行動は無いに等しい。昔馴染みである原田や永倉も四季を見かければその腕に納められている土方の姿にも慣れたものだと言った調子で声をかけるのだった。

「……四季、てめえは一体何回同じ事を言わせりゃ気が済むんだ」

溜息と共に口に出される言葉も四季からしてみれば何の効果も無く、そんな言葉すらも嬉しいかのように胸に回る腕に力を込めるのだから余程重症なのだろう。

「ふは、そんなに照れなくたって良いだろ。大丈夫、ちゃんと愛情の裏返しだってのは分かってっからな」

にへらと笑みを浮かべうなじへと唇を寄せる。ばしりと頭を後ろ手に叩かれでもしない限りその行動はエスカレートするのだからいかんせん手癖が悪いとしか言いようが無いのも仕方の無いことだと思われる。

「おお、宮路君来ていたのだね。君の先日の講演会、保護者の皆さんからも好評だったようだよ」

不意に叩かれた肩にそちらを振り向けば校長の近藤が立っていて。先日、客員教授である四季の行った講演会は学園の生徒だけではなくその保護者達にも好評だったらしく廊下を歩いていれば四季の姿を見付けた生徒が駆け寄って来ては口々に講演会の感想を伝える姿が見られるようになる程のものだった。常任では無いにしろ週の半分は学園で授業を担当する四季は昔馴染みの仲間以外にもその名前が知れ渡っているようで職員室に足を運ぶ道すがらも引っ切り無しに声をかけられたのであった。

「近藤さんにそう言って頂けるなんて幸いです、あれから生徒達も頻繁に声をかけてくれるようなったんですよ」

へらりと笑みを浮かべ近藤にその旨を報告する四季の表情は至極柔らかく、そして彼の担当する教科への情熱が感じられる。土方はそんな四季の姿を見る事が楽しみであったし、また自分と居る時とは違う表情を浮かべる新鮮さに自然と頬の筋肉が緩むのを感じ自嘲じみた笑みを浮かべるのだった。

「……む、そうだ。先日芹沢さんから頂いたんだが俺にはどうも使い道が無いようでな。どうだ、宮路君。歳と一緒に」

昼食のパンを咀嚼していれば不意に出される名前。そちらに意識を向ければ依然四季と近藤は会話を続けている姿が見える。名前を呼ばれたのは気のせいだったのかと考え、改めてパンを口にしようとした直前に背中へと何かが被さる重みに土方は本日何度目かの溜息を吐く。

「なあ歳、近藤さんに遊園地のペアチケット貰ったから今週末はデートなっ」

にっこりと浮かべられた笑みと共にチケットを手渡される。男二人で遊園地だなんて一体どんな罰ゲームだと言いたくもなるが、四季の嬉しそうな顔を見ればそんな言葉さえも飲み込んでしまう程には自分も四季に毒されているのだと。そう自覚してしまえばそれまで喉の奥に何かがつかえていた様な感覚は消え、土方は四季に吊られるように微笑むのだった。


変化


(なあ左之、土方さんがほだされるのも時間の問題じゃねえのか)
(あれはもうほだされた後だろうが)
(やっぱりそう思うか)
(そりゃあ、な。あれだけ表情に出す土方さんも珍しいけどよ)
(なんつうか、すげえな四季)
(だな)
‐End‐
20101215.