- ナノ -

犬猿の仲

「……邪魔」
「そう、それはごめんね」
「謝罪は良いからそこ、退け」
「どうして僕が君の為に廊下を譲らなきゃならないの、君が避けて通れば」

ああ煩い。こいつはどうしていつもこうなんだ。俺はあんたが嫌いだしあんたも俺を嫌ってる事なんざ分かってる、だったらわざわざ関わる必要が何処にあるって言うんだ。そもそも今現在のこの状況だってあんたがそこに立ち止まらなけりゃあ事は終わっていた、売られた喧嘩は買う、それがあんた相手なら尚更、だ。

「総司、副長があんたを呼んでいる。…宮路、あんたは先程買い出しに行くと言ってはなかったか」

互いに譲る事なく睨み合っていれば廊下の端からやって来た斎藤がそう言った。斎藤の言葉に沖田はわざとらしく肩を竦めた後に俺を見た。

「宮路君、君だって任務があるんでしょ。こんな所に突っ立ってないで早く行けば」

見ているこっちが腹立たしく思う笑みをあえて浮かべる沖田は相当に性格が歪んでいる。と言っても俺自身真っ当な人間かと言えばそうでもないが。ちなみに俺と沖田が険悪な雰囲気なのは常の事で斎藤は呆れた様に首を振って見せた。

「悪いな斎藤、あんたのおかげで本来すべき事を思い出せた。それじゃあ俺はもう行く、斎藤もそこの餓鬼に構っているとあんたまで餓鬼になっちまうぞ」

最後の言葉と共に沖田に視線を投げかける。対して沖田はいつもと変わらない憎らしい笑みを浮かべつつ口を開いた。

「宮路君だって僕と大した年の差は無いくせに、そもそも君ってばいつも一言が余計だよね」

ひらりと手を振り俺の横を通り過ぎる沖田に舌打ちを一つ。退けるなら始めから退けっての、この根性悪。

「…宮路、あんたも構わなければそれで済む事だろう」

俺の顔を見て小さく息を吐きながら言う斎藤に適当に相槌を打ち俺はその場を後にした。


犬猿の仲


(似た者同士、か)
(去り際に聞こえた斎藤の呟きに俺を今日何度目かの溜息を吐いた)
‐End‐
20101128.