- ナノ -

周囲の糖度をあげないで下さい

そもそも左之は色気を垂れ流し過ぎなんだよ。そんな四季の訳が分からねえ説教が始まったのはついさっきの事だった。それに至るまでは俺と四季、総司と斎藤で酒を交わしていただけの筈が何で俺が怒られる羽目になってるのか。ちなみに新八と平助は夜の巡察の為に今回は席を外していた。

「何、左之さんってば四季に怒られる様な真似したの? ほら、例えば四季以外の誰かを誘惑しただとか」

ちびちびと酒を啜る総司の言葉に溜息を一つ。俺は四季に責められなきゃならねえ事をした覚えは無えし、総司の言う様に誰かと寝たなんて事も当然身に覚えは無かった。そんな俺の考えなんざとっくに分かっているくせにあえてそれを口に出して言う総司はとことん意地が悪いと思う。

「誰がんな真似するか、おい四季。俺はお前に何かしたか?」

俺の言葉に総司は面白くなさそうに肩を竦め、斎藤は答えを待つかの様に四季の顔を見やった。

「左之が」
「俺が、何だ?」
「その半端ねえ位に垂れ流した色気をどうにかしてくれねえと俺は満足に飯も食えねえんだよ」

息もつかずにそう言いきった四季はその勢いのままに俺の手を取った。いきなり腕を引かれ体勢を崩せば必然的に四季の胸に顔を埋める事になる。男の胸になんざ何の欲も湧かねえがどうやら俺にとっての四季はそれの対象外らしい。普段いくら馬鹿やったところで腐っても恋仲って訳なのか、妙に脈打つ心臓に小さく舌打ちを漏らした。

「つまりだ、俺は左之といるだけで胸が苦しくなっちまって仕方無えんだよ。聞こえんだろ、俺の心拍音」

耳を掠めたその声音は微かに震えていて。四季の言う様に、確かに四季の鼓動はいくらか速いように思えて。柄じゃあ無えが、よく分からねえ高揚感で胸がいっぱいになったのを感じた。

「だから、俺がどうにかなっちまう前に左之はその色気をどうにかしてくれ」

へらりと情けない笑みを浮かべてそう言った四季は言葉とは裏腹に俺の背に回した腕の力を強めた。


周囲の糖度をあげないで下さい


(ねえ一君、二人とも僕らが居るのを忘れてるみたいだね)
(……)
(あーあ、一君固まっちゃった)
(左之)
(っ、な……んだ、よ)
(すげえ好き)
(そ、かよ)
(なーんか、虚しいなあ)
‐End‐
周りのカップルに5の溜息:03 fisika様より拝借
20101121.