- ナノ -

心配

※SSL
眠い、と思わず口をついて出たそれに返される言葉はなく。代わりとばかりに飛んできた語尾を強めたお叱りのそれにはいはいとばかりに肩を竦めて見せる。そんな俺に斎藤は何を考えたのかいつの間にか目の前にまで近付いてきて真正面からその意思の強い瞳で見詰めてくる。知らずと、まるで降参を表すかのように上げていた両手をひらひらと振っては相手の出方を窺うことはや数分。

「寝不足か?」
「……は、」

ぽそりと呟かれた斎藤からのそれに俺は首を傾げようとすればその行動は許されず。つい、と伸ばされた指先は緩慢な動作で俺の目許を撫でたものだからどうにもこうにも頭が働かずにひたすらに触れられるままに斎藤の動向を見守るのみ。どうした、と不自然に掠れた声で訊くも俺の問い掛けは斎藤に届いていないのかひたすらに指先で俺の肌へと触れるばかり。

「隈が出来ている、眠れていないのか」
「……自覚はねえ、な」

不意に問われたそれに数秒の間の後に答えを返せばそれきり斎藤は口を開くことなく俺の目許を親指の腹でそっと撫でるだけだった。


心配


(しっかり眠れ、倒れられては困る)
(……おー、善処する)
(ああ、そうしてくれ)
‐End‐
20121222.