- ナノ -

夕方

※SSL
もうすっかり秋だな、と。急速に暗くなる外の景色を貸し出し用のカウンターに肘を着きながら言えば返されるのは浅い頷き。両腕に返却された本を抱えて本棚の間を行き来する井吹を眺めながらボールペンを走らせる、今日の出来事、来室者数、貸出し冊数、返却冊数、その他諸々エトセトラ。そんなこんなで明日の当番への申し送り事項を纏めて句点を打って。かちりと芯が戻る音を最後に図書室内は一瞬無音に包まれた。

「……っ、と、ちょい、」

さて俺も手伝うかと腰を上げるも返却用の棚は既にもぬけの殻。案外仕事が早いのな、と妙な納得をしつつ戸締まりをするために室内を見回れば井吹がぶつぶつと呟きながら腕を伸ばす姿。見れば足元は踵を上げてつま先立ち、腕を目一杯に伸ばして最上段に本を押し込めようとする様に声を掛けることはせずに眺めれていれば。とん、と軽くジャンプをして背表紙を押し込む井吹が何故か、すごく新鮮に感じた。

「……っ、な、宮路、あんた居たのか」
「居ちゃワリイか、日誌は書き終わったから戸締まりの確認してたんだよ」

優秀な井吹君が本の返却を一人でやりきって下さったので、とおどけた調子で口に出せば途端にふい、とそっぽを向かれる。見てたんなら手伝えよ、あんたの方が俺より背が高いんだし。少し不貞腐れたようなその声音。ああバレてたか、とにんまり笑顔で返せばがしがしと髪を掻く姿。


夕方


(井吹は俺に手伝って欲しかったんだ?)
(わざと顔を覗き込むようにして言えば井吹の奴、シカトして逃げやがった)
‐End‐
男主と学校生活:男主×井吹、放課後その2。
設置/20120914〜20121204