- ナノ -

祭りのあと

洗面所で顔をゆすぐ蘭丸にタオルを投げれば短い礼が返される。とりあえずとばかりに床に落ちたケーキの残骸は片付けたし蘭丸の顔からぼたりと溢れ落ちた元ケーキという名のスポンジと生クリームの塊は投げた張本人である寿さんとその同期であるらしい先輩と、ぶつけられた張本人の蘭丸が綺麗に平らげた。ちなみに俺はシャンパンの用意をしていたために被害はゼロ。顔面でケーキを受け止めた蘭丸は寿さんをぶん殴りつつ顔からクリームを指で掬って食べていた。そのうちそんな蘭丸の姿に何を思ったか寿さんが蘭丸の頬にかじりついたのがきっかけで寿さんの頭には蘭丸からの拳骨が一発二発。相変わらず仲良いよなこいつら、とは思わずにいられない光景に俺と残った先輩は顔を見合わせて笑った。

「悪いな、黒崎くん。嶺二が世話かけた、良い誕生日を……と、宮路くん片付け任せて悪い」

律儀にそう言って寝落ちた寿さんを背負って頭を下げる先輩を見送ったあとに残るのは誕生日パーティー後独特の散らかった部屋となんとなく感じる物悲しい感覚。ちくたくと音をたてる壁時計はてっぺんを越えて既に日付は変わったあと。

「相変わらずだな寿さんも」

くつくつ笑うことを隠さずに口に出せば大袈裟なくらいの溜め息が返される。そのわりに表情は緩いからやっぱりこいつもそれなりに楽しかったし嬉しかったんだろうなと感じ見ているこっちまで気分が高揚してきた。

「……ったく、食い物無駄にしてんじゃねえばかれーじ」

ぶつぶつ呟く蘭丸を横目に片付けをするかとローテーブル脇に向かう、そんな深夜0時過ぎ。


祭りのあと


(あ、言い忘れ)
(……ンだよ、)
(誕生日おめでとう、蘭丸にとって幸せな一年になりますように)
(……おう、さんきゅ)
‐End‐
蘭ちゃん誕生日おめでとう!
20120929.