- ナノ -

便乗

ここ数日の嶺二のはしゃぎようと言ったら物凄い。会う度に鼻歌を歌ってるし聞いてみればそれはどうやらバースデーソングのようで。スキップ混じりで俺の隣を歩く嶺二にそれを訊けば。成る程、数日後に迫った黒崎くんの誕生日に向けての練習らしい。鼻歌を練習するのはどうなんだとは思ったがその辺りはバかわいいので放っておく。

「当日はね、ランランの顔にケーキぶつけてこよっかなあって」

ランランは食べ物を無駄にはしない子だからきっとぶつぶつ言いながらも食べてくれるからねきっと。にへらにへら悪戯げに笑う嶺二に思わず心の中で黒崎くんへ合掌した。

「なら当日は遅いんだな、帰宅は」

久々に一人でのんびりするかとぼんやり頭の中で予定を組み立てつつ訊けば嶺二の奴はなんとも不思議そうに首を傾げて見せる。それに釣られるように瞬きを数度、何か変なこと言ったか、と訊けば実に予想外の返答が寄越される。

「四季も、参加だよー。ほら、前にランランと話してみたいって言ってたしね」

ブイサインを送る嶺二に俺の顔はきっと呆けていただろう。つまりは初対面の相手にいきなりケーキを顔面にぶつけられる黒崎くんの図柄が出来上がるわけで。それもまた何となく楽しそうだなと思ってしまう辺り俺は嶺二と長く居るだけあるな、と。

「……あー、とりあえず嶺二。プレゼント選び付き合え」

当日の黒崎くん、それと確実に彼に怒られるだろう嶺二の姿を想像しての笑いに堪えながらそう誘えば。

「もっちろん、よっし、なら残りのお仕事頑張ろうねんっ」

がば、と抱き着いてくる嶺二を受け止めて返事代わりに髪をわしゃわしゃと撫でたそんなある日の休憩時間。


便乗


(そういえば、黒崎くんとはほぼ初対面だぞ)
(だいじょーぶいぶいっ、ぼくちんは事あるごとに四季の名前出してるからねえ)
(そ、なら安心)
‐End‐
20120928.