- ナノ -

それただの惚気ですよね

「ああ、もうどうすりゃあ良いんだよ」

さっきから隣で唸ってる四季とそれを聞き流す俺。いやそれ俺が言いたい気分だから。つか本当いい加減飽きねえのかよ、さっきから半刻くらいずっとこうしてるってさあ。俺も俺でだったら席を外せば良いじゃんだとか思うけど四季の奴が俺を逃がしてくんねえんだからどうしようも出来ないでいるわけで。だって立ち上がろうとする度に俺の髪掴むもんだから痛くて敵わねえんだよ、ああ本当俺も左之さんと新八っつぁんに着いて島原行きゃあ良かった。

「あれ、平助に四季じゃない。二人ともこんな所で何してるの」

ふらっと現れた総司はそのまま俺の隣に腰を下ろして面白そうに笑ってた。こっちは泣きたい気分だっての、とは思ったけどまあ漸く俺一人での四季世話係から救われたって考えりゃあ良いんだよ、な。

「それで、何かあったの?」

俺を通り越して四季に聞く総司と、総司の言葉に項垂れる四季。無駄だって総司、さっきから四季の奴何も喋らねえんだからさ。

「……一が」

あ、喋りだした。

「一君が」
「……最近ますます綺麗になっちまってて困る」
「……」
「……な、なあ四季。さっきから唸ってたのはそれ、なんだよな」

俺の言葉に勢いよく頷く四季。つか何、一君が綺麗で困るって。それ聞いた俺達に何て言葉を望んでんのか全く分かんねえんだけど。ほら見てみろよ、総司の奴なんか欠伸してやがるから。

「……とりあえずさあ、四季は一回不逞浪士にでも斬られて頭を冷やしてくれば良いんじゃないかな」

ふあ、って欠伸漏らしながら言った言葉とは思えねえくらいに物騒な事を言ってのける総司と口を尖らせて拗ねる四季。なんつうかさ、四季って刀握ってる時とかはすげえ格好良いのに一君が絡むと途端に情けなくなるって言うか、とにかくものすげえくらいに一君馬鹿なんだと思う。

「……うー、俺にとっちゃ死活問題だっつの。このままじゃ一に惚れる不逞の輩がどんどん増えちまうじゃねえか」
「そっか、四季はその不逞の輩の筆頭って言うのがまだ分からないみたいだからもう僕が斬ってあげるよ」

にっこり笑った総司はそう言って腰の刀に手を掛けた。あーあ、俺もう知らねえ。とりあえず一君のとこにでも逃げてっかなあ。

「平助、一を独り占めすんなよっ」

総司に羽交い絞めにされて身動き取れない四季からの忠告に後ろ手に手を振ってその場を退散する。あれ、つか俺一君の部屋に行こうなんて口に出してねえんだけど。


それただの惚気ですよね


(ねえ一君、四季の躾はしっかりしてくれなきゃ困るよ)
(……四季が何かしたのか)
(一君との惚気話を聞かされる僕らの身にもなってよ)
(……つか一君って四季にすげえ愛されてるよなあ)
(そう、か)
(あれえ一君、顔赤いみたいだけど)
(……っ、)
(あ、一見っけた。なあなあ俺んとこにあるすげえ美味い饅頭食わねえ?)
(……折角の誘いだ、頂くとしよう)
(あーあ、完璧に二人の世界になっちゃった)
‐End‐
周りのカップルに5の溜息:01 fisika様より拝借
20101116.