- ナノ -

ギャップ

さっきからしきりに背中へ張り付いてきやがるこいつは俺の問いには一切の返答を寄越さずにただひたすらにぐりぐりと背中へ額を押し付けてくるだけ。全くもって意味が分からない。俺は食後のコーヒーを飲もうとキッチンに立ってただけだっつうのに、ちゃんと今背中に張り付いてやがる嶺二の分も用意はするつもりだった。それが何故、こんな状態になってるのか。とりあえず挽き終わったコーヒー豆を移そうと手を伸ばしたその瞬間、ぴかりと外が明るくなったかと思いきや途端に響く雷鳴。ああそういえば今夜は雷雨だと夕方見た天気予報が言ってたなとまるで他人事のように考えてりゃあ腰に回された腕がぎゅうぎゅうとさっきよか更に強く締め付けてくるのに気付く。
肩越しに首だけで振り返れば嶺二は尚も俺の背中に張り付いたまま。心なしか腰に回された腕が震えている気がしてそろりと手を伸ばしてそれに触れれば大袈裟なくらいにびくつく身体に漸く合点がいった。

「……うう、もうやだやだやだ」
「嶺二、おまえ雷嫌いなのか」

答えは既に出てるようなものなのに敢えてそれを聞く辺り俺も性格が良い部類ではないのだろう。俺の言葉にこくこくと背後で頷いたらしい嶺二はそれきり言葉を発することはなく。コーヒーの支度が終わるまでずっと俺に張り付いたままだった。


ギャップ


(雷が鳴る度跳ねる身体が可愛いなんて)
(ああ成る程、これが噂のギャップ萌え、か)
‐End‐
20120924.