- ナノ -

くうふく

腹へった、と不意に呟く蘭丸に側にあったガムを放る。ナイスキャッチとばかりにガムを受け取った蘭丸はその存在を確かめるや否や眉間へと皺を寄せる。くい、と引っ張られるシャツの裾。どした、と首を傾げながら聞けば「食えねえだろ」の一言。食えない、くえない、クエナイ……ああ、ガムだからか、と一周して戻ってきた言葉の意味に頷きながらも視線は手元の雑誌へバック。

「でもこんな時間から物食うのもまずいだろ」
「ガムじゃ腹の足しにもならねえ」

至極真っ当な俺の意見に対して見事に噛み合わない回答を寄越す蘭丸。ちなみに今の時刻は午前0時を時計半周程過ぎたあたり、つまりこんな時間に何かを食べればカロリーに直結、ああ怖い怖い。そんな俺のささやかな抵抗にも我関せず、おそらく冷蔵庫を漁ろうと腰を上げた蘭丸の腕を引いて此方へと引き戻す。バランスを崩した身体を抱き止めて、これでも食ってろと口付けてやった。


くうふく


(……っ、んむ、)
(……っは、)
(……どうよ、お腹は満たされたかしら?)
(……ばかだろ、てめ、っ)
‐End‐
20120913.