- ナノ -

変な奴

「何しけた面してんだよ、んな面してると幸せが逃げちまうぜ井吹君」

不意に叩かれた肩に後ろを振り返ればそこには宮路が茶と茶請けを持って立っていた。どうやら俺と茶をするつもりの様で、断りも無しに隣へと腰掛けられた。

「芹沢さんに殴られたんだろ、ここ。赤くなっちまってる」

そう言って俺の額を撫でる宮路の瞳はどこまでも柔らかくて。俺はこいつと出会った当初、どうしてこいつはこんな瞳で俺を見るのかが不思議で仕方なくそして慣れないが故の居心地の悪さを感じていた。

「……別に。あの人のあれはいつもの事だろうが。男が顔に一つや二つ傷作ったところで何も問題は無いだろ」

手渡された茶に口を付けつつそう呟けば隣に座る宮路は何がそんなに辛いのかってくらいに眉を潜めてやがった。

「どうしてあんたがそんな顔するんだ? 俺が怪我しようが死のうがあんたにはまるで関係が無いだろ」

じっと見詰められている事に居心地の悪さを感じて俯けば。くしゃりと撫でられた頭に肩が跳ねた。

「関係無かろうが痛いもんは痛いだろ。それに俺が誰を心配しようが自由」

ふんわりと笑みを浮かべられてそう言われれば。今までそんな感情を向けられた事の無い俺はどうしたら良いのか分からずに居るだけで。

「あんたって変わってる、な」

漸く絞り出した言葉にくつりと喉を鳴らす音。笑われたのかと分かれば餓鬼かよってくらいに顔を背ける始末。そんな俺の肩を一つ叩いた宮路は妙に楽しそうな笑みを残して縁側を後にした。


変な奴


(あ、俺今から巡察なんだが井吹君何か欲しいもんある?)
(……別に)
(そんじゃ俺が井吹君に贈りたいもん買ってくるから文句無しな?)
(勝手にしろよ。……あー、気をつけてな)
(ん、ありがと)
‐End‐
20101110.