- ナノ -

おとどけ

携帯が着信を知らせるバイブで震えたのは午前1時を少し過ぎた辺り。誰かと思いきや受話器越しの相手は通常時なら絶対にこんな深夜に電話をかける真似などしないだろう相手。どうした、と聞けば同室の奴が帰ってこないと今ではすっかりと慣れきった類いの知らせで。普段ならばあまり干渉をしないだろうに、今夜の彼の声は些か慌てた様子だったのが気になり詳細を訪ねてみればどうやら奴は明日の朝一で重要な補講が入っているらしく。自室を出る際に彼が耳にした話ではその補講のおかげで今夜は早々に帰寮しなければならない、とのこと。それがこの時間帯になってまで帰ってこないので心配、だときっと顔を曇らせての言葉に安心させるようにあとは自分が引き受ける、との旨を伝えれば受話器越しの彼は漸く安堵した様子で礼を返してきた。

「まさか、ねえ」

一人そう呟いたものの目の前の人物には届くこともなく身動き一つしないのだから相当寝入っているのだろうとは見て分かる。とりあえず見付け次第送り届けるからと言えば安心して吐息を溢す真斗との通話を終えてからものの数分。談話室のソファーに身体を預けて眠るレンの姿に誰に聞かせるでもなく溜め息が一つ。これはマスターキーの出番だろうなとポケットを漁りその存在を確認した後、試しにとレンの身体を揺すったところで意識が覚醒する気配は一切無いわけで。

「……本当に、人騒がせな奴だなお前は」

背中にレンをおぶって、廊下を歩きながら呟いた独り言に返されるのは心地好さげな寝息のみで。ああこいつもそれなりに眠れはするんだな、と妙な安心感を得た。


おとどけ


(宮路さん、申し訳ありません後は俺が)
(寝てて良いっつったのにな、ったく心配かけさせたってのにこいつは寝てるし)
(……随分と、寝入っているようですが)
(ん、ちょっと俺も安心した)
(ふ、確かにそれは言えていますね)
‐End‐
20120909.