- ナノ -

深夜

静、と口をついたそれに返される音はなく。とっくに深夜を迎えた辺りはシンと静まり返っていて物音がない、聞こえるとすれば静から発せられる小さな寝息くらい。ちらりと時計を見れば時刻は0時を半分以上過ぎた頃――そりゃそうだ、バイトが長引いて終電で帰ってきたんだから。

「静、おい、静」

控え目に肩へと手をやって揺するも起きる気配は全くない。人ん家のマンションの扉に寄り掛かって寝ちまうなんざ、本当にこいつは警戒心が少ないというか、いくら俺の家の前だからといってももう少し自己防衛をすべきじゃあないか。とりあえず部屋に運ぶか、と静の身体を抱き起こせば気付くのはいくつかの擦り傷切り傷などなど。ああ、また折原と一悶着あったのかといつもながらの光景に思わず吐息が零れる。

「あんまり、傷作って欲しくないんだけど、な」

呟いた声は夜の闇に消えていった。


深夜


(明日、合鍵でも渡しとくか)
‐End‐
20120907.