- ナノ -

仮面の下

「らんらん超かっくいー」

スタジオの廊下で擦れ違った瞬間に言われたそれに眉間へは無意識に皺が寄ったのが分かる。言葉とは裏腹にまったくの棒読みでそれを言った野郎は一瞬の隙に時計を見たかと思いきや人の手首をおもいきり掴んで人通りのない脇道へと引き摺り込みやがった。

「って、寿さんが言ってた」
「……既に直で言われた後だっつの」

聞けば四季は今日発売したソロの感想を言っているらしい、嶺二の真似なんかするからややこしいわウザいわでごっちゃになるが。

「相変わらず蘭丸はあの人に好かれてるよなあ、妬けるやけるー」

けらけら笑いながら告げられるそれはこいつの本心か否か、俺には分かりかねる。つうよりはこいつは中々他人に本心を見せねえから実のところどう思ってなにを考えてるかなんて分かるのはほんの一握り、分からねえことのが多いくらいなわけで。

「蘭丸、すげえ皺。ここ」

んなことを考えてりゃあいきなり伸ばされた手で眉間を擦られてダセえことに肩が跳ねた、俺を見て四季はやっぱりけらけら笑う。

「……ふ、蘭丸かっわいー」
「それも、嶺二が言いやがったのか」

なら絞めるぞあいつ。腹立つからそう言ってやれば四季はまた時計を見た後に耳元で囁く。それが珍しいくらいにこいつ本人の言葉だったらしく、それが分かる自分に苛つくわ、不意に本音を投げて寄越す四季がムカつくわで頭が痛くなった、ウゼえ。


仮面の下


(蘭丸って耳弱いな)
(……ウゼえ)
(照れ隠しー、寿さんに垂れ込むかー)
(な、てめ)
‐End‐
20120905.