- ナノ -

あてられる

あんた達はそれが常なのか。浪士組の連中と過ごすうちに頻繁に目につくようになったそれの意味を今日こそは聞いてやろうと意気込んだのが数刻前。いざ聞くぞ、と思い立ち宮路の自室の前で一呼吸、名を呼んで部屋の主が在室だと確認して襖を開ければ目の前に飛び込んできた光景に少しの目眩を感じてその場に立ち竦む。

「龍之介、どうかしたか」

そう俺に声をかける宮路と、俺には一切目もくれずに居る斎藤の姿。いやまあ目もくれず、と言ったものの当の本人は俺が見たこともない程に安らかな表情を浮かべて宮路の膝に頭を預けて眠っているわけだから仕方ないといえば仕方ないけど。

「い、や……その、」

情けないことに自分から宮路の部屋へ足を踏み入れたものの予想もしていなかったその光景にすっかり息巻いていた気は落ち着き、どうにも気恥ずかしくなって視線を泳がせる羽目になる。何故か、なんてそんなの決まってる。普段はかっちりと着込んだ着流しの袷は僅かに寛いでいて、それでいて微笑んでいるかのように安らかな寝顔、加えて手は#名字2#のそれと繋がれたまま。そんな普段じゃ絶対に見ることの敵わない斎藤の姿に呆然と立ち尽くすしかなくて、ぱくぱくと口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す俺の姿は端から見たらなんて間抜けなことか。

「ふ、何突っ立ってんだか……ああそうだ、前に市中で貰ったかりんとうがあったはず。確か甘いもの、好きだったよな」

一緒に食べないか、との誘いに瞬きを数回。ちらりと視線を投げた先にはやはり斎藤が心地好さげに宮路の膝で寝息をたてていて。あんたそんな状態じゃどうにも動けないだろ、暗にそんな意味を含めて宮路を見れば空いた片方の手で斎藤の髪を弛く梳いているところで。

「や、やっぱり、また今度にする」


あてられる


(あんな奴等の横で菓子なんて食えるはずがないだろ)
‐End‐
20120830.