- ナノ -

いぬ、はじめました

ぱたぱた、まるで犬のように尻尾を振る涼太の姿には思わず口許が弛む。実際に尻尾なんてものが見えるはずはないけれど、全身で好かれているというのが見てとれるのは物凄く、口には出さないものの嬉しくて堪らない。

「四季っちー、なに考えてるんスか?」

オレと居るのに余所見なんて寂しいんスけど、そう続ける涼太の耳はぱたりと倒れている、いや錯覚だけど。ねえねえ、と俺よりも高い身長なくせして上目遣いをしやがる涼太は本当にあざとい、本人はきっと自覚はないんだろうけども。

「涼太は犬みたいだな」

少しばかり踵を上げて手を伸ばす、くしゃりと指に絡む金髪を堪能しながら空いた片手でゆっくりと頬を撫でれば途端に擦り寄る始末。こいつ他の奴にもこんな態度じゃないだろうな、と不吉な考えが頭を過るものの直ぐにかき消える。こいつはそんな器用な奴じゃない、と。

「四季っちの傍に居られんなら犬でも何でも良いっスよ」

にへら、と笑みを浮かべて。そのでかい身体でぎゅうぎゅうに抱き着いてくる涼太は男のくせに、可愛い。


いぬ、はじめました


(ああ、俺もかなり)
(こいつに盲目だ)
‐End‐
20120824.