- ナノ -

勝手にヤキモチの対象にしないでください

「一君と烝君が羨ましい」

ぽつりと呟いた俺の言葉は総司の声に一蹴された。

「四季ってばまたあの二人と何かあった訳?」

ず、と湯呑のお茶を啜りつつ俺の言葉を促す辺り今日の総司は機嫌が良いのだと解釈して事のあらましを話した。

「つまり、四季が土方さんの部屋に行く時は何故か必ず一君と山崎君が先に部屋に居るからおちおちいちゃつきも出来ないって事?」

俺の話に軽い相槌を打ちつつ傍らの団子を右手で弄ぶ総司の言葉に勢いよく頷く。へえ、だなんてにんまりと笑って俺を見る総司の唇は綺麗に弧を描いていた。いつの間にか俺の隣に腰掛けて皿の団子に手を出す平助を一瞥して肩を竦めればそれに気付いた平助は俺の肩をばしばしと叩いて笑いやがった。

「そもそも一君達だって任務で土方さんの部屋に居るだけじゃねえの? つか四季の場合、土方さんの部屋に入り浸り過ぎだって」

もぐもぐと口いっぱいに団子を頬張りながら口にする平助に俺は項垂れる他無い。確かに俺だってちょっとは気にしたりするっつの、歳さんにべったりとくっつき過ぎじゃあねえかだとか。でも会いてえっつう気持ちは抑えきれねえのもまた確かな訳で。

「あー、なんつうかさ。歳さんってば一君と烝君にすっげえ信頼寄せてんじゃん? それは二人にも言える事だけどよ……ああなんか上手く言えねえっ」

がしがしと頭を掻く俺と苦笑いを浮かべる平助。総司はと言えば相変わらず読めない顔で笑っている。

「要するに、嫉妬してるんでしょ二人に。だけど新選組の一員として信頼関係があって当然だって言うのも分かっているからこそ尚更にもやもやが落ち着かないってところ?」

俺が何も言えずに黙り込んだのを見て「だそうですよ土方さん」と、後ろを振り返る総司。さあ、と血の気が引く思いで背後に目を向ければそこには何とも微妙な表情を浮かべた歳さんが居た。

「それじゃあ、あとはごゆっくり」

言うが早いか平助を引きずって背を向けた総司とその場に残って顔を見合わせる俺と歳さん。端から見たらなんて光景だよって位に空気が重い――いやまあ俺だけが一方的にだけど。

「……てめえは馬鹿か」

呆れた声音でそう言った歳さんに俺は思わず瞳をぎゅうっと閉じた。その直後に何故か急に身体が温かくなって、あれこれ歳さんが抱きしめてくれてるんじゃねえかって物凄く調子良い考えが頭を過ぎった。

「歳さん?」
「……んだよ」

もしかしなくても俺の考えは間違ってなかった様で。眼前に広がる歳さんの胸板から顔を離してちらりと上を見上げればそこには真っ赤な顔をしてそっぽを向く歳さんが居た。「見てんじゃねえよ」そう言って頭を叩かれて、その直ぐ後に今度は歳さんが俺の胸に顔を埋めてきて。

「こうしてえと思うのはてめえだけだ、この馬鹿」

ぎゅうっと擦り寄られて呟かれたその一言に俺の不安は消えていった。


勝手にヤキモチの対象にしないでください


(副……っ)
(あれー、どうしたの一君と山崎君二人して固まっちゃって)
(……おい)
(ふは、お二人ともお熱いことで)
(……一君と烝君にはやらねえから)
(……っの、馬鹿野郎)
(あーあ、三人共顔真っ赤だし)
‐End‐
周りのカップルに5の溜息:02 fisika様より拝借
20101025.