- ナノ -

弁当と彼

肉を頬張る姿はとてもじゃないがアイドルなんてものじゃなくて。いつもはクールにすかしているくせして殊更食べ物を前にするとその姿から一転、まるで子供の様に瞳を輝かせて箸を取る姿。

「作り手も、お前に食われるなら本望だろうな」

誰に言うでもなく、不意に口をついて出た言葉に蘭丸が顔を上げる。荒々しく食べるのかと思いきや存外落ち着いて食事に向かう姿に驚いたのがもう随分と昔のことのようで。流石御曹司、と口にすれば蘭丸は眉間へと皺を寄せてこちらを睨んできた。懐かしいな、とまたも溢れたそれに蘭丸は小さく首を傾げるも食事を止める気はないらしい。再度出された弁当に向き合い、唐揚げを口に運ぶ姿を何の気もなしにただぼんやりと見詰めていれば。

「食わねえなら寄越せ、あと、見過ぎなんだよ」

ん、と顎で指した先にあった弁当を手渡せば僅かに弛む表情。やばい、と思った瞬間にはばっちりと視線がぶつかって。

「だから、何だよ」

ふい、とそっぽを向いて視線を逸らす蘭丸は言葉ほど苛ついている様子ではなくて。ああ照れ臭いのか、と。ふと浮かんだそれはどうも口に出していたらしく、げし、と足先で蹴られた脛が痛くて堪らない。


弁当と彼


(美味いかー、と訊けば)
(んまい、と)
(目尻下げて小さく笑う蘭丸の姿が拝めた)
‐End‐
20120820.