- ナノ -

距離

ふ、と吐息を洩らす姿を見るのはもう何度目か。しんどそうに眉間に皺を寄せながらも決してラケットは離さないくせに。誰かに声を掛けられれば笑顔で応対して、時に厳しく、常に優しく。そんな良い人間、出来る先輩、頼りになる部長というタイトルを総なめにしている白石は果たして一体いつ気を抜いているのか。

「いつもお疲れさん」

たまたま、本当にただの偶然。ぶらりと立ち寄った先の薬局で出会した白石の手には栄養ドリンクの瓶が一本。若いくせに何してるんだか、口には出さずにそれには気付かない振りをして声をかければひくりと跳ねる肩に瞬きを数回。

「なんや、宮路やん。驚かせんとき」

ふは、と。小さく苦笑を浮かべながらの言葉に肩を竦めて見せる。そない大層な話ちゃうから俺は大丈夫やで。誰に言うでもなく、すれ違い様にそう言ってレジに向かう白石の背中を見送って。

「まだ、遠いんやなあ」

人知れず呟いたそれは店内のざわめきに消えていった。


距離


(隣に行きたいなん、言わへん)
(せやから)
(俺の前では見せてえな、疲れた顔も)
‐End‐
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20120414.