- ナノ -

盲目

※SSL
はいこれ、龍にな。手渡した紙袋の中身はチョコ、というのは名目上でマドレーヌが数個とあとその他菓子をちょいちょいと。出掛け先で入ったケーキ屋で包んでもらったそれを龍に渡そうと思い立ったのはつい先程。

「なんであんたが、俺にこれを渡すんだ?」

心底不思議ですって顔して首を傾げる龍に思わず小さく笑いが洩れる。バレンタイン、あげ損ねちまったからその代わりにな。目線の少し下にある蒼をぐしゃりと掻き撫でながら訳を説明すればなんとなくは理解をしたようで。

「な、ら……来月は、俺の番だな」

金欠だからあまり期待しないでくれ、と。ぽつりと返されたそれに瞬きを数回。別にお返しを期待していたわけでもないくせにそんなことを言われれば人間は現金な生き物だということを嫌でも自覚せざる得なくて。

「俺も、宮路に渡したい」

だって仕方ないだろ、こんなこと言われちまえば。ああなにこの可愛い生き物、男相手にチョコだとか、可愛いだとか我ながら可笑しいんじゃねえかとも思うが。それ以上に目の前で視線逸らして、でも赤く染まった耳元を晒してる龍が愛しくて堪らねえんだから。


盲目


(溺れちまうだろ、もっと)
‐End‐
男主とバレンタイン(part.5):男主×井吹、その後。
設置/20120219〜20120225