- ナノ -

おねがい

目の前に広がるチョコの山、山、やま。買い物ついでに通りすがったもののさっきから一向にあるワンフロアで立ち止まったきり動こうとしない黒崎に吐息を一つ。よくよく注視してみればその瞳はガキのようにきらっきらしてるわけで。ああ、成程そんなにもチョコから目を離さないわけだ、と漸く合点がいく。

「なあ、黒崎」
「……なんだ」

チョコ、食いたいのか。そんな意味も込めて目の前のチョコの山へと視線を流して見せた後に再度黒崎へと戻す。う、と。何故か唸った黒崎は辺りをきょろきょろと窺った後にずい、と顔を近付けて俺の耳元へ囁いた。

「宮路……お、おまえがどうしてもっつうなら、貰ってやっても良いぜ」

一つ二つと瞬きを数回、漸く脳内に行き着いた言葉を理解すると共に目の前で何故かふんぞり返る黒崎の姿に不意に笑いが込み上げてきて。

「ばーか、欲しいんなら素直にお願いしろよ……蘭ちゃん?」

仕返しとばかりに襟首を掴んで互いの距離を近付けて言えば。ぱくぱくと口を開いたり閉めたり、暫くそんな行動を繰り返した黒崎は耳をすまさなければ聞こえないほど小さな声でそれを絞り出した。


おねがい


(らんちゃーん、人に頼むときはそれなりの態度じゃなきゃ、ね?)
‐To be continue‐
男主とバレンタイン(part.4):男主×黒崎、前日。
設置/20120213〜20120225