- ナノ -

特権

「誕生日おめでとお、」

受話器越しに聞こえる声に全神経を集める。わざわざ電話なんしてくれはってえらいすんません。忙しい四季さんに向かってそう言うたら阿呆、て返しはる。

「俺は、ちゅうか俺が、柔造のことを祝いたかってん。せやから謝るんやなくて、笑顔になってえな」

あ、なんや拗ねてはるんやなあこのお人は、て。どうにも感じてまう優越感に俺の頬は緩むばかりで。なんやほんま、このお人は人の心情読むんが上手なんやなあて改めて尊敬した。俺が四季さんに電話しいひんことを見越して電話してくれはったんも、中々会えへんことを眉根下げて謝りはるんも、会うた時に抱き締めてくれはる腕も。今は側に居らん姿を脳裏に浮かべればなんや女々しい思考になってしもて。

「阿呆、言いたいことあるんやったら良いや。柔造はそないふうに我慢してばっかやしなあ昔から」

すとん、て落ちるその言葉に沈んだ気持ちはいとも簡単に浮上する。明日かて任務があるんに何をこないに落ち込んどるんや俺らしない。自身に渇を入れて、大丈夫ですえ、あんさんの心配にはおよびしませんわ。小さく返したそれには四季さんがくつくつ笑う声。

「まあ良えよ、今はそれで。そっち帰った時は甘えてえな、たまにはな」

俺甘える性格とちゃいますえ、て。気恥ずかしさを紛らわす為の言葉に返されたそれに俺は今度こそ頭を抱えるしかあらへんかった。


特権


(柔造を甘えさしたるんは俺だけの特権やねん)
(阿呆、あんさんは俺を甘やかし過ぎですえ)
‐End‐
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20120206.