- ナノ -

よる

寒い、と呟いたところで状況が変わるはずもなく。ただなんとなく、辺りを見渡した後に物音をたてないようにと注意を払って自室を後にする。身体を覆う毛布は体温こそ手放さずに居られるもののそれ以外は全くの無意味で、何を探す宛もなく、ただふらりと寮のラウンジを目指す。しん、と静まり返る廊下とひたひたと裸足の足が床を滑る音、それに加えて衣擦れの音が聞こえて。

「深夜徘徊とはまた、良い趣味してるねえレンちゃんも?」

心地好いテノールのそれは俺の耳にすとんと落ちてきた。寒いだろそんな格好じゃ、くつくつと喉で笑う姿はいくら目が暗闇に慣れてきたといってもぼんやりとしか見えなくて。

「その台詞、お前にそっくりそのまま返すよ」

見えない姿を無理矢理に見る必要はない。そう自己完結をして肩を竦めた。

「俺は寮長ですから、迷子を見付けたら連れ戻さなきゃならないの」

随分と近くで声が聞こえた、と思った直後には身体が浮いていて。驚いて視線を上げると直ぐ至近距離には#名字2#の顔がある。足先冷えてる。はあ、と吐息混じりに言われたそれに無意識に唇を噛み締めていたことが分かって小さく首を振る。

「寝れないなら、俺が子守唄をあげようか?」

心地好い響きで耳に届いたその言葉を最後に互いに口を開くこともなく。鼻先に香る宮路の匂いに意識は次第と落ちていった。

「おやすみ、レン」


よる


(額に柔らかなキスを落とされたことに気付くはずもなく、俺の意識は遠退いていった)
‐End‐
20120202.