- ナノ -

対面



初めにその名を聞いたのはつい先日、新八と原田が職員室で話していた会話内に以前耳にした覚えのあるその名があった。だがそれが何処で聞いたものなのかは生憎と記憶にない。それならば何故、俺はこんなにもその見たこともない相手に対して思考を巡らせているのか。


「土方さん、僕に用事があるんだったら直接言いに来たらどうですかー」

ふてぶてしい笑みを浮かべた総司に溜め息が漏れる。そんな俺に総司は小憎たらしい笑いを返す、そういつもと変わらない日常のはずだった。小テストについての説教をした後に、ふと総司が普段よりいくらか穏やかではないかと気になった。何故かと問われたところで明確な解答は出せないが、ただ、返される言葉に普段はある刺が見当たらないかのように思えた。

「総司、近頃はどうなんだ?」
「近頃って、ああ…通院のことですか」

浮かんだ疑問を払うかのように当たり障りのない疑問をぶつける。俺の言葉に一瞬の思案をして見せた後に、総司は緩く笑みを浮かべて俺に向かい直る。その表情はやはり普段よりか穏やかだった。

「病院で、面白い子と知り合ったんですよ。残念ながら彼が転入してきたのは隣のクラスなんですけどね」

直衛君って言うんです、その彼。そう言った総司は玩具を見付けた餓鬼のようにそれは至極楽しげに微笑みやがった。


「失礼します、こちらに沖田総司はいらっしゃいますか」

不意に扉越しに聞こえた声の主は控えめなノックをした後に室内へと入ってきた。あれ直衛君じゃない、とそいつへと呼び掛ける総司と、苦笑を浮かべて頷き返す直衛。俺はと言えば、何故今まで忘れていたのかと自分自身を強く詰りたいと思うほど、たった今目の前には現れた直衛千里という存在がこの場にある事実に狼狽えた。



(あの時、背中を預け合ったてめえが居るだなんて)
(そんな夢物語はあっちゃならねえんだよ)