- ナノ -

屋上



つきり、と痛む頭。朝、学校へ行くために起床した後に必ず襲うその痛み。痛み始めたのはいつからだったか、確かそれは親の転勤によってこちらへと引っ越しが決まった夏休みに入る前だったはず。一向に治まる気配のないそれに対する診断は“異常なし”。それならばこの刺すように痛む原因は、そう聞いたところで精密検査で出た結果に嘘はない、と。考えられる原因は慣れない環境によるストレスではないかとの診断が出され、痛みが落ち着くまでは経過観察という結果に落ち着いた。


「別にそんな繊細な神経してねえよ」
「うん、それは言えてるかもね」

俺の独り言に返された言葉に頷きつつも差し出された缶ジュースを受け取る。互いに互いの病状を聞くなんてこともなく、ただ一言二言、言葉を交わす一時にどちらかともなく笑いが漏れた。

「そっちは診察終わったのか?」
「うん、僕は経過観察だけだから」

そうか、と呟いたそれに返しはなく。その代わりというわけでもないだろうが、今まで俺が通院する理由を尋ねたことのなかった沖田が初めてそれについて口をきいた。

「僕はさ、夏休み前まで肺を悪くして入院していたんだよね」

ぽつりぽつりと呟かれる言葉に察し付く。時々、それの名残なんだろう空咳をしていたことからもぼんやりとはその病名を理解していた。もう今は完治したんだけれど周りが過保護だから、そう言って肩を竦めた沖田にふと疑問がわく。

「あんたって自分のそういったことは話さない人間かと思ったんだが」

言葉を濁しつつも暗に柄じゃないだろうと、そう伝えれば。俺の言葉に数秒間思案した後に、どうしてだろうね、と。沖田はそう続けた。

「なんとなく、君になら良いかなって思ったから。特に理由なんて思い付かないや」
「そう、か」

うん、僕が君に勝手に話しただけだから。と言っても君の通院する理由も話してだなんて言わないよ、そう言って緩く笑う沖田は俺の肩を一つ叩いた後に背を向けて屋上を後にした。



(ストレス性の頭痛らしい)
(後日、廊下でのすれ違い越しにそう言えば)
(そっか、と)
(あの日俺が返した台詞そのままに沖田は苦笑して見せた)