- ナノ -

食堂にて



沖田と風紀委員に捕まったことを覗けばそれからはそつなく物事が進み、今は昼休みで飯を食うべく食堂へと足を運んでみた。そういえば沖田が俺を捕まえた理由は単に道ずれが欲しかったのだろうと。転入生ならではの質問攻めに合いつつそう気付き、次に彼に会った際は何て小言を返してやろうかと考えた。そんなこんなで転入後初の授業も乗りきり食堂へ着けば目の前には席待ちをする生徒でごった返す情景があった。


「「あ」」

とりあえず飯を買わない限りはどうにもならないだろうと結論付けて券売機で食券を買う。カウンターに並び、定食に付けられたデザートを取ろうと手を伸ばせば。重なった声に疑問を抱きつつ背後を振り返るとどうも俺の後ろに居た奴も俺と同様にデザートへと手を伸ばしたところだった、ちなみにこのデザートは残り一皿。

「……」

見ればその人は肩につくかつかないかくらいの赤毛に、ネクタイを緩く締めた長身の男だった。格好から見るにおそらく教師。

「俺は別のにしますから、先生どうぞ」

別にどうしてもこれを食べたかったというわけでもなかったから、そう言ってその先生へとデザートを譲る。対してその先生は一つ瞬きをして見せた後に「良いのか?」と僅かな躊躇いを見せながら訊いてくる。

「そんな大層な話でもないでしょう、だから気にしないで下さい」
「…あー、だったらこれの代わりと言っちゃなんだが。お前、席はもう取ったのか?」

つまりは席に空きがあるんだろうと、その言葉から察して緩く首を振る。昼休みはどこの学校も食堂が混み合うことは共通らしく適当に空いた席を探そうと思っていた身としてはその提案は有難い。「ならこっち来いよ」と。それはそれは爽やかな笑みを浮かべて予め取っておいたのだろうテーブルへと案内された。うん、きっとこの先生は女子生徒にモテるんだろうな。

「んあ、なんだよ結局それにしたのか…つうか、誰だ?」

テーブルに既に着席していた緑色のジャージを着た――多分この人も先生だろう、人が俺に気付いて声を上げる。対して赤毛の先生はちょっとな、と妙な含みを持った返しをして俺へと席を勧めてきた。


「そういやお前、名前は?学年は二年みてえだが見ない顔だからな、転入生だろ」

一頻り各々の飯を食い終わった後の食休み中。ふと気付いたかのように赤毛の先生が訊いてきた。見ればジャージを着た先生の方もその言葉に吊られたのか俺の足元の上履きへと視線を走らせた後に納得した様子で浅く頷くのが分かった。



(直衛千里と言います、先生方は?)
(ああ、俺は原田左之助ってんだ。教科は保健体育)
(俺は永倉新八だ、数学担当)
(…永倉先生、その風体で専攻は数学ですか?)
(だよな、見てくれじゃ人ってのは分からねえもんだ)
(な、左之も直衛も言ってくれるじゃねえか)
(ふ、俺は別に悪く言ったつもりはないですから。まあ原田先生に関しては知りませんけど)
(なんだ、あっさり裏切りやがって)
(お、直衛。お前、左之を黙らせるなんざ中々良い性格してんじゃねえか)