- ナノ -

後押し



直衛君が倒れたと土方さんから携帯に連絡があって五稜郭近くの市民病院へと向かう。どうして土方さんは僕に電話したのか、だとか。直衛君はもう土方さんから全てを聞いたのか、だとか。土方さんは直衛君に何を話したのか、だとか。ぐるぐると脳内を駆け回る疑問は病院に着くまで消えることはなかった。


「直衛君」

応急処置室の簡易ベッドに横たわった直衛君には点滴が繋がれているのが分かる。見れば意識は無いものの微かに吐息しているのが分かり安堵のために膝へと力が入らなくなった。「総司」と。病室の扉を勢いよく開けた僕に対してそれまで直衛君の傍らにあるパイプ椅子に腰掛けて彼を見詰めていた土方さんは僕の方へと振り返って見せた。

「直衛が見る夢ってのがこれの原因なのか」

"これ"の指すものが直衛君を襲う頭痛のことだとすれば、その可能性もあるかもしれないですよ、と。逸らされたままの視線は絡むことなく、土方さんは僕と視線を合わすことはせずに俯いたまま唇を噛み締めた。

「直衛君が言ってましたよ、土方さんに夢で見た内容について聞いてみるって。土方さんは彼から尋ねられたら、何て答えるつもりなんですか?」

自然と声音が低くなる。それは以前も感じた子供じみた感情からだろうと無理矢理に納得付ける。それ以外の理由なんて、きっと直衛君にとっても、僕にとっても無意味なものだから。

「話さねえ、つもりだ」

小さく呟かれた言葉に昨晩彼が僕に向けて言った言葉が頭を過る。見れば土方さんは眉間の皺を更に深くして、膝に置かれた拳はきつく握りしめられていて。今伝えなければ、僕は昔と変わらずにただ子供じみた我が儘な感情を抱えたまま直衛君と土方さんに向き合うことになるのかな、と。投げ掛けた問いに答えを出した後に口を開く。

「直衛君は、土方さんから聞きたいんだと思います。それによってこの先何かが変わるとしても、彼には後悔なんてないと思いますよ」

心配してくれる人が居るから、そう言って僕の髪を撫でた直衛君があの時浮かべていた笑みだけは僕だけのものだったから。もう大丈夫、何かが吹っ切れたような気がして不意に笑いが込み上げてきた。

「ふ、土方さんらしくないですよだいたい。言いたいことがあるなら言えば良いじゃないですか、彼だってきっと待ってます」

急に笑いだした僕に瞳を瞬かす土方さんの姿が妙に普段の土方さんと似つかなくて。笑いが治まることはなく、うっすらと瞳が膜を張るまでに至るものだから尚更可笑しくなった。



(ねえ直衛君)
(君の意識が戻って昔の記憶を聞いても)
(君は変わらずに笑ってくれるよね)