- ナノ -

姿



「白髪と赤目、ね」

夢を見るんだ、その言葉から始まった直衛君の話す内容は僕にとって酷く懐かしく感じられるものだった。修学旅行の前夜、部活は無くてただなんとなく直衛君と帰り道を共にしていた時のこと。頭痛が始まった頃に同じタイミングで見始めた夢の話を語る直衛君の瞳は何処か遠くを見詰めているようにも見えたのがとても印象深かった。この間は世話かけて悪かったな、そんな苦笑の紛れた言葉で締め括られた会話の後はお互いに何かを話すといったこともせず、ただ時折肩がぶつかるだけだった。


「あれ、土方先生」

グループ内の健康管理だとかで召集をかけられ宿泊先の旅館に着くや否や、受付カウンター前の広間に集まることになった。高校生にもなって保健係なんざどうなんだ、とかなんとか思いつつもしおりとボールペン片手に行った先ではついこの間世話になった保健室の先生──確か山南先生と言ったか、と土方先生とが話している姿があった。

「ああ、直衛君でしたか。他の係の皆さんにはもう連絡を伝えたので君が最後ですよ」

俺に気付くと山南先生が土方先生との会話を中断し俺に手招きをして見せる。それに従って土方先生へと軽く会釈しつつ、部屋を出掛けに荷物を整理していたんでと言い訳宜しく苦笑を漏らせば、まあ良いでしょうと山南先生は微笑を浮かべて連絡事項について話してくれた。

「お話し中にすみませんでした。そういえば山南先生はともかく、土方先生も付き添いで来てたんですね」

連絡も一区切りつき、傍らで煙草を吸っていた土方先生へと向き直る──その姿に酷く見覚えがあったのは何故かは分からないけれど。一つ二つ瞬きをした後に土方先生はふい、と視線を反らして「ああ」とだけ言葉を返す。また反らされた、それが酷く胸にのし掛かるのはどうしてなのか。解答の出そうもない疑問に緩く首を振ることでそれに終止符を打った。


「直衛君、先日はあれから何か変わったことはありましたか?」

不意に問われたそれはこの間の保健室での話だと納得をする。大丈夫でした、と頷きを返す傍ら、土方先生が眉間に皺を寄せてこちらに視線を送っているのが見て分かった。


「頭痛持ちで通院してるんです俺。沖田とはその時に」

では私はこれで失礼します、と。山南先生が去った後の広間でなんとなくそう切り出してみた。俺の言葉に紫煙を吐き出して煙草を携帯灰皿へと押し付ける土方先生は視線だけ寄越して続きを、と促して見せた。

「頭痛の前か、もしくは後に決まって同じ夢を見るんです。最近じゃ、それが原因なんだろうとはぼんやり考えています」

ゆっくり着実に理解しかけていた頭痛の原因を含めて話を続ければ。俺の話を黙って聞く土方先生の顔が不意に夢の中のあの人と重なるのが分かった。



(目の前のこの人と夢の中のあの人は同じなんだろうか)
(浮かんだ疑問の答えは、まだ)