- ナノ -

詰問



「……か、た……っ、」

叫んだ名前は音にならず。ああまたあの光景を繰り返すだけかといい加減嫌気が差す。ただ違っていたのは、俺の目の前に横たわったその人が以前に見掛けた顔に酷く似ていたということ。誰だったか、夢の中でしきりに頭を悩ませて辿り着いた答えは、



今日の直衛君はいつにも増して顔色が悪いように思えた。内服の有無を訊いて返ってきたのは頷きのみ、効いてくるまでは辛いのかなとは思うもののこればかりは僕としては何も出来ないわけで。普段よりも顔色が青褪めているうえ、足元も覚束ないようだから保健室に連れていくべきなんだと結論付ける。

「直衛君、保健室で少し寝てきなよ。同じクラスの中田君だっけ、彼には僕から伝えとくからさ」
「ん、悪い」

答える声音は常のものより覇気がなく、とりあえずと肩を支えながら保健室へと連れて行った。僕の姿を見るなり山南さんには首を傾けて訝しがられたけれど、「今日は彼をお願いします」と心持ち固くなった声色のまま告げて簡易ベッドへと直衛君を横たえる。

「沖田」

保健室に彼を預けて、教室に向かおうとした道すがら不意に呼ばれた名前に振り返ればそこには井吹君が居て。珍しいこともあるんだね、なんて戯れに返せば返答もそこそこに眉間に皺を寄せた井吹君は一瞬思案するように視線をさ迷わせた後に声を低めて訊いてきた。

「平助に聞いたんだが、あんたは直衛と親しいのか」

どうして井吹君が直衛君のことを、問い掛けようとした台詞は口をついて出ることなく飲み込まれた。何故かって、井吹君が何かを躊躇うような素振りで未だに視線をさ迷わせていたから。仕方ないなあ。肩を竦めつつ、直衛君について何かあるのかと僕の方から質問を投げてみた。

「土方さんは、気付いているのか?」

どうしてそこで土方さんの名前が出てくるの、自然と低くなった僕の声音に井吹君はひくりと肩を震わせて見せる。口に出された名前に敏感に反応した理由は、それはきっとこの間の出来事のせい。

「……俺は当時、確かに土方さんと共に居た直衛を見た」

小さく呟かれたそれにはやっぱりね、という気持ちと、また土方さんか、という気持ちがごちゃごちゃになるのを感じて知らずと唇を噛み締める。井吹君の言う“当時”の僕の記憶には直衛君は居ない、けれど井吹君は彼を知っている。それはつまり直衛君は土方さんが蝦夷に向かった後に知り合った人物だったんだろうと容易に予想付いたから。



(土方さんに聞きたいことがあるんですけど)
(直衛だろ)
(僕の言葉に弱々しげに苦笑を見せた土方さんはこれから僕が聞こうとしていることに合点がいっていたんだと思う)