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チョコレートのワルツ

チョコレートフォンデュってどう思う?問いかけながらも歩みは止めず、背後に流れていくその映像を横目に降谷へと視線を流す。たまたま通りがかった駅ビルのでかい液晶広告からはビル内のテナントに存在するデザートブッフェの目玉らしいそれが惜しみなく垂れ流れてくる様を映していて、見るだけで甘さの広がる濃厚なチョコレートの雪崩に軽く胃もたれを感じるのは年齢のせいなのかと虚しさすら感じてくるから解せない。

「あれは、チョコレートファウンテンだな」
「さっすがあむぴ、女子高生みたいなこと言うじゃん」
「伊達に喫茶店で働いていないからね、……なんて言うと思うか?」
「はいはいジョークよジョーク、可愛いあだ名じゃん」
「誰かに聞かれたらどう言い訳するんだお前みたいなむさ苦しい男から“あむぴ”なんて呼ばれている姿を見られたら」
「そこはほら、なんかこううまいことできるでしょお前なら」
「……ったく」

軽口に軽口を返す。むしろ本来の名を口にしない辺り徹底していると褒めてほしいくらいだ、という言葉は出さずに妙に口に馴染むつい先程口にしたばかりの名を何度か繰り返し音に出してみた。

「あむぴ。あーむぴ、あーむーぴー」
「頼むから職場で言うなよそれ」
「そりゃ、可愛い部下の前であむぴなんて呼ばれたくないよなぁ。あー、ウケる」

何処ぞの女子高生たちが聞けばこぞって呼び始めそうなそのあだ名は取り急ぎ、俺だけのものとするべく口を噤む。そんな俺を見た降谷はようやく満足げに頷いて見せて、やっぱり歩みを止めることなく目的地へと向かうのだった。


20211011
(Title by Garnet)