- ナノ -

憂愁は震えるゼリーのように

震えなんてものは感じずにただ淡々と、その遺体を見下ろすだけ。俺が震えるのは今ではない。きっと震えるべく瞬間はもっと前だったはず。傑を見下ろす悟の瞳の色は見ないことにする。何故って傑の瞳の色ももう見えないから。硝子が居たらなぁなんて馬鹿みたいな夢物語が浮かんでは消えて浮かんでは消えていく、炭酸の泡のように一瞬で、シャボン玉のように弾けて消えていく。

「佳のこれからの予定は?」
「高専に投降」
「そっか」
「オマエは?」
「僕もとりあえず現状報告に行かないといけないね」
「はは、僕なんてらしくねぇじゃん悟」
「一人称“俺”が印象悪いって言った奴って誰だっけ」
「傑じゃん。今もう居ねぇけど」
「俺が殺したからね」
「うん、オマエが殺した。そんで俺も、傑を殺した」
「……そ、なら一緒にとりあえず戻るで良い?一瞬だよビューンって」
「……あー、いつの間にかそれ出来るようになってたのか悟」
「そ、人は成長するからね」
「……んじゃ、それで頼むわ」

見下ろした傑の遺体は微かに笑っていたかもしれない。そんな可能性がまた浮かんでは消えて、消えて、消えていった。


20211009
(Title by Garnet)