- ナノ -

ワイングラスに透かして見る烈情

「は?」

なんとなしに口にした言葉はあっけなくも一言で突っ返される。折原にとってそれは返したというほどの行為ではないかもしれないが俺にとってはそれに等しい反応であるわけで。

「いや、何その不景気な顔」
「べつにー」
「トイレの場所くらい知ってるくせに」

あっけらかんと告げられたそれに、手に持っていたビールの缶は音を立ててひしゃげて見せる。フローリングの床に無造作に放られたビニール袋に潰したばかりの缶を投げ入れて無駄にでかい冷蔵庫へと歩み寄る際に背後から投げられたリクエストにはきちんと応えるべく両手に二缶を持ってキッチンから戻った。

「ん」
「ありがと佳。飲む?」
「は?」
「飲みさしが嫌なら新しいの開ければ」
「いや、これにする」
「ウケる」

短い会話が投げ交わされてその間にも互いの缶は入れ替わっては戻り、入れ替わっては戻りを繰り返す。俺が選んだものではない妙に甘ったるい液体を舌で舐め取るのとほぼ同時、無理矢理に向かされた方面へ首の骨が妙な音を立てるのを感じつつ促されるまま見つめ合えば噛みつかれるようにして唇が自分ではない唾液で濡れるのが分かった。

「えっち」
「可愛こぶるなってば」
「トイレあっちだろ?」
「俺の部屋だけどねここ」

何溜まってんの?決定的な言葉は告げずじまい。放り投げた缶がかしゃんと音を立てたのを確認してから折原の手を思い切り引いてやった。ざまぁみろばーか。


20210411
(Title by Garnet)