- ナノ -

半分この大きい方をあげる

「半分こした大きい方を渡すことがイコール優しいとは限らないって話してたの誰だっけ、我路?」
「いや。オレが佳に話して聞かせた整くんのはなし」
「でた久能くん!」
「でもそれは元々広島の汐路ちゃん経由だったんじゃないかな」
「あー、汐路ちゃんか。あの子今こっちにいるんだって?」
「みたいだよ。何度か連絡取ってる」
「証拠残さずに?」
「もちろん」

我ながら不穏な会話だという感想は手に持った肉まんの暖かさによっていとも簡単に放り出される。もうこの季節かと思う反面、気づけばとっくにおでんの什器が出ているし肉まんをはじめとした中華まんたちもほわほわの湯気を纏って客を待ち構えているのだから季節の巡りは早いのだと何度目かの実感を伴って秋の風を身に受ける。常に手袋を嵌めている我路の代わり、つい先程店員から受け取ったビニール袋から目的の品を取り出して丁寧に割ったつもりだったはずの肉まんはどちらかといえば左右非対称。不意に思い出した台詞と共に差し出したのは微妙に小さい方の欠片だったし、そんな俺の行動を我路は肩を震わせて笑うのはいつもの光景だ。

「それ言いつつオレにくれるのは小さい方なんだ?」
「大きい方食べたい時って態度で言うからね我路は。で、今はそれが無かったし俺も腹が減っているから大きい方にさせてもらった」
「オレってそんなに分かりやすいかな」
「場面によりけり?それこそ久能くんなら見極められるかもね」
「久し振りに会いたくなってきたな、整くんに」
「……大学に潜入、ってまだ許される年齢だと思う?」
「佳ならギリギリセーフ」
「お、それなら忍び込んでこよっかな」
「感想教えてね、整くんと話してきたらきっと佳も気にいるだろうから」
「はいはい楽しみにしとくよ」


20211014
(Title by Garnet)