- ナノ -

てのひらに夢の剥片

そろそろ時期だなと思えば行動は早く、コンビニで見かけたそれを手提げ袋不要のままテープの貼られたその姿で恵へと差し出した。

「……もうこの季節か」
「そ、もうこの季節。今年は何個使うか見ものだな」
「んなに使わねぇとは思いたい」
「でも手のひら大事にしてほしいじゃん」
「……そりゃ、それはそれとして。普通に1、2本で足りるんじゃないか」
「でも意外と切ったり擦ったり剥けたりするから流石冬」
「……確かにな」
「塗り過ぎたら俺が貰うから俺の好きな香りにしちった」
「この会話も毎年の恒例だろ」
「あ、さっすが恵は記憶力いいね」

他愛もない会話は恵の言うように毎年繰り広げられる言葉の応酬だ。叶うならば来年も、それが叶い続けて何年目かというのは敢えて数えていないし指折り計算するのもまた違うだろうという認識。恵に聞けば案外この恒例行事も何周年になるのか覚えている可能性も微レ存だと思えば、やっぱり何度も思うのは願わくば来年も、無事で。ただそれだけ。


20211013
(Title by Garnet)