It falls in love.



僕はあの日以来、まともな目であの人を見れなくなった。虎のように意思の強い瞳に僕を映して欲しくなって、やたらと細い腰を抱き寄せたくなって、左手の薬指に光る指輪に激しく嫉妬した。これはいよいよまずいことになったと気付いたときには、スポーツドリンクを飲んでいる彼の唇に目を奪われていた。

そうなってから色々と考えた。男同士ということや彼には娘がいること、そして彼はきっと僕に振り向かないこと。報われない悲しみに浸り、それでも彼を好きだと自覚する。ひたすらにぐるぐると終わりのない思考の波に呑まれていく。
このままではきっと僕は駄目になってしまうだろう。復讐も果たせぬままに、冷静さを失ったまま彼を求めるだけの存在になってしまう。これほどまでに人を愛したことなどなかった僕は戸惑っている。


「バニーちゃん、最近元気ないな。」
「…そ、んなこと、」

ランニングマシーンで二人並行して走りながら尋ねられる。

「…今日は真面目にトレーニングしてるんですね。」
「んー、たまにはなぁ。て、おい…まぁいいか。」

この人は変なところで大人だ。下手くそな話の逸らし方でも、言いたくないと分かった途端に誤魔化されるふりをしてくれる。普段はプライベートにも口を出してくるくせに、本当に踏み込んで欲しくないところは一線を引くのだ。
彼にしては珍しく暫し沈黙が続き、気まずくなってトレーニングに夢中になっているふりをした。隣で汗を流す彼を横目で見て、肌に張り付くシャツと首筋を流れる汗に生唾を飲み込む。今夜は彼を汚す妄想をするのだろう。我ながら嫌になる。ずくんと下半身に熱が集まる気がして、そろそろまずいとランニングマシーンのスピードを徐々に落とした。

「バニーちゃん今日は早いね。」
「…ええ、まぁ。」
「…この後バニーちゃん暇?」

ああ、もうこの人はいい加減にしてくれないだろうか。自分がどんな目で見られているか自覚してほしい。そんな無防備な顔で誘われてしまっては、断ることなど出来ないではないか。
僕は無言で頷いた。




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