As for me, it is fortunate that it is together with you.



「なぁ、バニーちゃん。」
「何ですか、虎徹さん。」

一緒にチャーハン作ろうか。

バーナビーは驚いたように目を見開き、少し照れたように笑った。



お互いに引退を決め、離れる覚悟はあった。ただの相棒なだけであれば寂しいで済むが、たまに会うだけで良い。友人であれば、数ヶ月に一度でも二人で予定を決めて遊びに行くだけで良かった。虎徹とバーナビーは、ただの相棒や友人というには近すぎて、恋人というには少し遠すぎる。それでも、今まではその距離で事足りて、離れなくてはならない今、かつてないほどのジレンマと葛藤で身動きが取れずにいた。優しい声やキスは出来ても、愛の言葉は掛けられない。バーナビーはその先の関係へと行きたかった。虎徹はこのまま離れる方が互いのためだと思っていた。

『まだバニーちゃんは若いんだ。このままずるずる一緒にいるよりは…』

虎徹はそう考える。いつか笑い話で済む日がくる。バーナビーの気持ちは、きっと勘違いなのだ。美人で優しい嫁をもらって、二人に似た子供を作って、幸せになるべきだ。そのためには、このままではいけないのだ。きっぱりと別れ、互いが納得しなければならない。
虎徹はバーナビーを愛している。しかしそれだけでは世の中罷り通らないのだ。心で納得しなければならない。辛いのは虎徹も一緒である。

「うん、おいしく出来たな。」
「おいしいですね。」

弾んだ声が食卓に木霊し、かちゃかちゃ音を立てるスプーンがおいしさを物語っていた。
「あそこでマヨネーズを入れるなんて思わなかったですよ。」
「そこが虎徹チャーハンの隠し味ってな。」

にこにこと楽しそうに笑うバーナビーは、何の疑いもない目で虎徹を見詰めている。無邪気な瞳は、時間をかけてようやく手に出来たものだったのに。一足先に食べ終えた虎徹は、そっとバーナビーの手に触れる。

「何ですか、虎徹さん?」

小首を傾げる愛し子に、愛していると伝えるように虎徹は口を開いた。

「さよならしよう。」

唖然としているバーナビーに畳み掛けるように虎徹は続ける。

「お前はまだ若い。結婚して子供を作って幸せな家庭を作れ。」

諭すような優しい声が、残酷な響きを持って温かかった空間に響き渡る。まるで愛を紡ぐような愛しさを孕んだ瞳を向け、唇だけが別の生き物のように別れを告げる。バーナビーは耳を塞いでしまいたかった。そうすれば彼からの別れは聴こえないだろう。それでいい、そうすれば良かった。僕はあなたと一緒にいたいんだ、それが幸せなのに。嫌だと口を開こうと唇を戦慄かせた瞬間、虎徹の声に遮られる。

「バーナビー、分かるだろう?」

その時バーナビーはようやく理解したのだ。この時を以てしてバーナビーと虎徹は他人に成ったのだと。言葉にも出来ないような緩やかな関係が崩れ去る。柔らかな声音とは裏腹に、決して有無を言わさぬ口調、穏やかでありながらバーナビーから逸らさない黄金の瞳、冷たい手を温かく包み込む大きな骨張った手、全てがバーナビーを拒絶した。優しく温い思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

「もう、戻れないんですか。」

生暖かくて心地好い関係に。未練がましく女々しいとも自分で思う。それでもバーナビーは、虎徹をこれからも愛したかった。人生で唯一愛した人、恐らく人生で愛するのは最後の人。
虎徹は視線を逸らすように瞳を伏せ、無情にもゆっくりと首を横に振った。髪と同じ色合いの睫毛が肌に影を落としているのを見て、バーナビーは彼の睫毛が思っていたよりも長かったことに気付いた。

「でも、もしも、もしもお前とまた同じ道を歩むことになったら、」

一緒になろう。







(まさかあれがプロポーズだったなんて…)
(ちっ、ちげーって…)
(僕はあなたが復帰したとき嬉しくて舞い上がってしまったんですが…違うんですか?)
(ち、がく、ない。)


As for me, it is fortunate that it is together with you.
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