The moment the glass broke



ヒーローになって10年目。ベテランと言えば聞こえは良いが、盛りも過ぎたおじさんだということは自覚はしている。けれどまだまだ現役でヒーローを続けられるほど人気はあるし、力だって衰えていない。
僕はまだ、ヒーローだと胸を張って言える。
それが、どうしてこんなことに。

「コンビ?これとですか?」
「これって失礼な言い方ですね。」

人の良さそうなにこやかな笑みが若干崩れている。これは本当に面倒臭そうだ。感情で動くタイプの僕の苦手な人間だということが窺い知れた。

「まぁまぁ、ヒーロー界初のコンビということで注目も浴びるし、いいじゃない。」

ロイズさんは困ったような顔で僕を宥め、コンビになるという彼に自己紹介するように言った。

「鏑木・T・虎徹です。ヒーロー名はワイルドタイガー。よろしく。」
「…バーナビー・ブルックス・Jr…よろしくお願いします。」

内心よろしくしたくないとは思ったが、僕より若い彼が我慢して大人の対応をしているのだ。文句も全て飲み込んで、握手をした。彼の手は思ったより温かく、じんわりと僕の冷たい手に熱が浸透する。人肌を感じたのは、何だか久し振りな気がした。



「だから、何で貴方は物を壊すんです。」
「バニーちゃん、ごめん、ごめんってー。」

彼の下手な敬語はすぐにタメ口へと変化し、僕のことをあろうことか「バニーちゃん」と呼ぶようになった。何度も訂正させても、嫌味なのか呼び方を変えずにいる彼のことは「おじさん」と呼ぶことにした。見た目はティーンエイジャーに間違う程の童顔だが、中身はまるでおじさんである。酒は日本酒、つまみにはさきいか。若いのだからもっと若者らしいものを飲んだらどうだと言ったが、彼にはこだわりがあるらしい。
流行にも鈍感で、人の気持ちにも鈍感であり、所謂空気が読めないという人間なのである。彼はやる気だけはあるが、どうにもそのやる気が空回りしているらしく、スマートに人を助けることが出来ない。今回だって犯人を捕まえるためにモノレールの線路を曲げてしまった。先が思いやられる。

「全く、年下なのに僕の言うことも聞きやしないんです。この間も…」
「話切っちゃって悪いんだけど、」

ファイヤーエンブレムは桃色のカクテルをくるくると回しながら、僕に視線を向ける。

「あんたあの子のことよく見てるわよね。」
「…まぁ、相棒ですから。」

彼はまだヒーローになってから日が浅く、他のヒーローたちと未だにあまり交流がない。互いに忙しいというのもあるだろうが、ファイヤーエンブレムやロックバイソンとは気が合いそうだ。今度交流する機会を与えねば。妙な義務感を感じていた。

「恋、みたいね。」

構う必要もなく、また世話を焼くタイプでもないのに。

「あんたがそんなに興味を持って、ましてや世話を焼くなんてね。」

僕は衝撃を受け、持っていたグラスをぽろりと落としてしまった。



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