I confess to him.
「どうするんだ。」
虎徹の親友だった男は、バーナビーに問う。バーナビーは視線を緩やかに逸らし、男のすっかり変わってしまった容姿を視界に収めた。皺は増え、白髪は増えた。自慢だった筋肉もすっかり衰え、男は小さくなってしまっていた。男がこうも変わってしまえるほどに、時間は経っていたのだ。
バーナビーは男の問いに答えることなく、愛する彼が淹れてくれた珈琲を一口含んだ。男はそれをただ静かに見詰めている。
どうするんだ、男は具体的に言わなかった。それはもしかしたら今夜の夕飯のことかもしれないし、明日の予定のことかもしれない。しかし、バーナビーには言外に含まれた意図が分かっていた。
「それに『虎徹』なんて名前を付けて。」
それと言われたものも分かる。愛する彼のことだ。
だがその言葉に怒りをぶつけることも出来ず、ただ男の続きを待つ。背後に控える彼は、気配で苦笑しているのが窺えた。
「『虎徹』は何も喜ばんぞ。」
分かっている。だってこれは自分のエゴイズムだ。
仕事だと割り切るように没頭したアンドロイド開発。結果として造り上げてしまった「虎徹」。『虎徹』の容姿に似せて、『虎徹』の行動パターンをプログラムして。
「それを造って何か得られたか。」
世界が騒いだアンドロイドプロトタイプは、彼ではなく、彼のついでに造った女性型アンドロイドだった。彼を世間に公表したくなくて、彼をひた隠しにしてきた。
何か得られただろうか。そんなこと、バーナビーが知りたかった。
「僕は本当は全部知っているんです。」
虎徹の親友だった男が帰ったリビングで、バーナビーはぽつりと呟く。彼は静かにバーナビーの言葉を聴いている。
「貴方が『虎徹』さんになれないことも、貴方を造ったことで余計に苦しくなったことも。」
まるで神に祈るように、ぽつりぽつりと溢していく。バーナビーは俯いたまま、背後に控えたままの彼に懺悔する。
「貴方は怒りますか。」
「……。」
アンドロイドに感情など存在しない。それでもバーナビーは、彼に赦されたかった。
「…『虎徹』なら、」
バーナビーは思わず振り返る。彼は金の瞳を和ませて、優しげに微笑んでいた。
「お前を叱ってやるべきだったんだ。お前は一人で居られるくらい強い人間だろ、って…」
その言葉は、彼がプログラムされたデータに基づいて出されたものだろうか。バーナビーには、分からなかった。
「バニーちゃん、人は死ぬものだ。」
彼はそう言ってバーナビーの蜜色の髪を撫でる。そうして、バーナビーはようやく『虎徹』の死というものを実感した。
I confess to him.