shall we dance?



事件はとある叫び声によって始まった。

「え、なに、どうしたの。」

トレーニングルームにいたネイサンが声を上げ、スポーツドリンクを飲んでいたカリーナが咳き込み、椅子に座っていたホァンとイワンが顔を上げ、トレーニングしていたキースが瞳を瞬かせた。叫び声はロッカールームからのようで、トレーニングルームの面々は顔を見合わせた。




「どうしたのよ。」

男子用ロッカールームの扉を叩き、ネイサンが声を掛ける。だが何やら中で揉めているのか怒鳴り声とばたばたと慌ただしい音が聴こえるだけで中の様子は分からない。キースとネイサンは再び顔を見合せ、二人の後ろにいたイワン、ホァン、カリーナに入るから待っていろと声を掛けた。三人は頷き、それを見たキースはドアノブに手を伸ばした。

「入るよ。」

がちゃりと開けた扉の向こうには、女性を押し倒すバーナビーと、それを止めようとしているアントニオがいた。

「バニーちゃん、悪かったよ!」
「だから、あなたはっ、」
「落ち着けバーナビー!」

バーナビーを羽交い締めにして女性からバーナビーを離したアントニオは、開いている扉にようやく気付いたようでぴたりと動きを止める。それを不審に思ったバーナビーと女性も扉へと目を向け、ぴたりと静止してしまう。

「…君は誰だい。」
「ていうかどういう状況?」



「はあぁ?女になったぁ?」

信じられないというふうにカリーナは呆れた声を上げ、女性になったという虎徹をまじまじと見詰めた。確かに小柄にはなり、特徴的な髭はなくなったが髪型や顔立ちは虎徹に似ている。短い黒髪に僅かに垂れた金の瞳、すっと通った鼻筋、何より肌の色である。黄色人種らしい焼けた肌の色が、虎徹と同じなのだ。

「う、あんま見るなよ。」

皆が一様に虎徹を見ていると、虎徹は恥ずかしそうに身を捩った。
「何が原因なんだい?」
「多分NEXTだ。」

曖昧な物言いに呆れるバーナビーを見て、虎徹はますます縮こまってしまう。虎徹らしくなくぽそぽそと事情を話し始める。

「昨日一人でバーに行ったんだ。」

マスターと話をしながら良い感じに酔ってきて虎徹が帰ろうしたとき、男に話し掛けられてそのまま意気投合し、暫く二人で飲んでいた。すると男が突然「女になってみたくないか?」と聞いてきたのだ。虎徹はその時酔っていて正常な判断が出来なかった挙句、互いに酔っていたのだ。酔っ払いの戯言だと思った。

『一回はなってみてーなぁ。』

そう答えてしまった。その後の記憶はないが、気が付いたら自宅で寝ていたのだから何とか帰宅出来たのだろう。

「今朝までは普通の体だったんだ。だから普通に出社して、バニーちゃんと一緒にトレーニングルーム来たんだ。」

そうして虎徹はバーナビーと他愛もない掛け合いをしながら着替えていた最中、突然目眩を感じて倒れ込んだ。

「体が青く光ったので暴走したのかと思ったんですが…」

虎徹の言葉に続けたバーナビーは、顔を真っ赤に染め上げ、慌てて口を閉じた。

「丁度俺さぁ、上半身裸だったんだよ。俺叫んだ後冷静になった時バニーちゃん顔真っ赤だったからついからかっちった。」

気まずそうに話す虎徹に、バーナビーは溜め息を吐く。

『バニーちゃん童貞?』

そうからかって胸を押し付けられたのだ。バーナビーは再び押し当てられた柔らかな感覚を思い出して赤面した。
何が起きたのかようやく理解出来たと頷く一行に、虎徹はほっと息を吐いた。
頭を掻こうと腕を上げれば、今までどうにか目立たないようにしていた胸元が露になる。カリーナたちは思わず凝視した。

「…っなんなのよ!なんで私より胸おっきいわけ!?」

カリーナにそう責め立てられたが、だから目立たないようにしてたのに、と理不尽な怒りを受けながら虎徹は思った。



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