※The first love is not fulfilled.と同じ設定、こっちの方が前の話です

This love alone is not regretted.



「好きです。」

先生の驚いたような目に、僕はやってしまったと思った。


手料理というものを食べたことがないと、バーナビーが言った。虎徹はバーナビーに手料理の良さを解らせてやろうと笑った。きっかけはそれだけだったのだ。

「適当に楽にしといてくれ。」
「…先生、部屋汚いですね。」

形の整った眉をしかめるバーナビーを見て、苦笑しながら買ってきた荷物をカウンターに置く。

「男の部屋なんてこんなもんだろ。」
「意外とカウンターキッチンですし。」

キョロキョロと辺りを見回し、意外そうに口を開く。年相応な振る舞いをするバーナビーのそんな様子が堪らなく愛しくなり、蜂蜜色のさらさらとした髪を撫でた。バーナビーはむっとして子供扱いしないで下さい、ぽそりと言う。手を払い除けない辺り、頑張って懐柔した甲斐があったというものだ。最初はそれはもう、つんけんとしていてちょっとでも心に触れようものなら大怪我をさせられたものだ。そんな頃が懐かしい、虎徹はそう思って優しげに瞳を細める。

「早く作って下さいよ。」

にやにやとしているのが気に食わないのだろう。唇を尖らせるバーナビーにくしゃりとした笑みを向け、虎徹は袖を捲り上げ、黒いエプロンをつけた。そのまま鼻歌を歌いながら材料を刻んでいく様子を伺いながら、遠慮がちにソファに座る。ふっと視線を上げると、チェストの上の写真立てが目に入る。木目調のシンプルな写真立ての中で笑う親子を見て、バーナビーはああこの人は人の親なのだと改めて思う。

「…娘さん、は、」

こんな状況で何の心構えも無しに教師の娘には会えない。

「ああ、娘は俺の実家に預けてるんだ。」

その言葉にほんの少しほっとしながら、これ以上追求するなという雰囲気を感じ取る。困ったような顔で笑う彼を誰が追求できようか。バーナビーは気付いていないふりをした。

さあたんと食えと出された日本料理のオンパレードに、バーナビーはあんぐりと口を開けた。肉じゃがを始めとする大量の家庭料理のその美味しそうな香り。正直男の手料理と馬鹿にしていたのだが、小一時間前の自分を叱咤したい。

「…すごい。」
「さあ食べろ。」

悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みで、バーナビーが手を付けるのを見ている。恐る恐る一口分口に運び、美味しすぎて頬が落ちるという言葉を初めて理解する。おいしい、思わずそう溢したバーナビーを見てガッツポーズを決める虎徹は、到底三十路を過ぎた教師には見えなかった。良い意味でも悪い意味でも。

「そういやお前のファンクラブ出来てんの知ってる?」
「…そんなものあるんですか。」
「お前の眼鏡と同じの掛けてる奴らがそうらしい。」

不愉快そうに眉をしかめるバーナビーを見て苦笑しながら、虎徹は続ける。

「お前彼女とか作らねえの?」
「興味ないんで。」
「好きなタイプとか。」

肉じゃがをぱくりと口に含みながら言う。バーナビーは一瞬箸を止めた。言うか言わないか逡巡している、そんな様子にも見えた。

「貴方です。」
「…ん?」
「貴方ですって言ったらどうします?」

バーナビーは必死に先へ先へと先行する言葉を止めようとしたが、バーナビーの意思に反して舌は饒舌に回る。

「好きです。」

言ってしまってから、バーナビーはそもそもこの家へと来てしまったのが間違いだったのだと頭を抱えたくなった。



This love alone is not regretted.
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